章末話 ある少女の思い出

今年もまた、夏がやって来た。

二駅離れた学校から、生まれ育った町へと戻り、

家へと歩く間にも、夏服にじんわりと汗がにじんでくる。

今日は午前中だけで終わりだったから、尚更だ。


いつもの帰り道を歩いていると、

舗装された地面の上に、もやのようなものが浮かぶ。


『陽炎』という自然現象であることはよく知られているし、

夏の間は珍しくないものだけれど、私にとっては特別な存在だ。

――あの夏を、思い出すものだから。



幼かった私には、いなくなったはずの、良子おばあちゃんとまた会えた・・・!

くらいの気持ちしかなかったけれど、

今にして思えば、あるはずのないことが町の中では起きていて、

同時に、曾祖母である良子おばあちゃんがそうだったと聞くように、

私が『視える』ほうの人だということを、突き付けられた時でもあった。


『視える』ということは、危険な存在に気付ける面もあるけれど、

見たくないものを見てしまう時もあるし、それに影響されやすいという面もある。

もちろん、周りの大多数である、視えない人達とはその出来事を共有できない。


そうしたことを私に教えて、身を守るためのものまで渡してくれたのは、

あの時、良子おばあちゃんに頼まれていたのだという、

事件を解決したお姉さん達だった。


住んでいる場所は少し遠いから、頻繁に会えるわけではないけれど、

年に一回は町に来てくれて、私もあの頃のお姉さん達と同じくらいになった今は、

電話やメールで相談することもできる。


あの中で一番年上の遥流華はるかさんは、

昔、美園さんの両親に同じようにお世話になっていたらしくて、

そんな繋がりが、私まで届いてきたのだと思うと、少し感慨深いし、

何より私が今も無事でいられることは、お姉さん達に本当に感謝すべきだろう。



私もいつか、誰かに出来ることがあれば・・・

そう考えて、今はお仕事も始めている、お姉さん達の姿を思い返す。


初めて会った日、私が小さな子供だったように、

お姉さん達も学生から・・・遥流華さんはあの頃からそうだったけれど、大人になった。


妖精さん・・・ソフィアさんは、変わらない姿でいることも出来るそうだけど、

「アカリと同じ時間を過ごしたいのです。」と言って、

あかりさんと同じくらい時を重ねたような見た目をしている。

あの二人は、本当に仲良しだなあ・・・


そういえば、ソフィアさんを『妖精さん』と呼ぶのは、

あまり良くないことだと気付いたのは、しばらく経ってからだった。

その時は謝って、ソフィアさんも気にしないでと言ってくれたけど、

今でも昔の癖でそう呼びそうになってしまうから、本当に気を付けよう。


ただ、それがあったから、私が『視える』子だと皆が直感したらしいから、

今となっては、それも良い思い出なのかもしれないけれど。



思い浮かべながら、陽炎がゆらめく道を歩いていたら、もうすぐ家に着く。

夏が来たということは、お盆も程なくやって来るから、

また良子おばあちゃんの声が聞こえることを、楽しみにして過ごそう。


今年は、お姉さん達も一緒に来てくれるそうだから、

その時はきっと、こんな風に陽炎を眺めて、あの日のことを思い返しながら・・・

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