第49話 伝えるべきこと

「おばあちゃん、今日は来たよ。」

「よく来てくれたねえ。昨日は何かあったのかい?」


「お父さんとお母さんに、変なところに行っちゃだめって言われたの・・・」

「おやおや、あの二人も心配したんだろうねえ。

 まあ、ここが変なところというのも、間違いじゃあないさ。

 それで、今は来ていて大丈夫なのかい?」


「今日は何も言われなかった。」

「そうかい・・・それはそれで、子供をちゃんと見ているのか、

 心配になるけれどねえ。」


「・・・本当は昨日も、やだって言って、

 こっちに来ようとしたの。」

「うん・・・?」


「そうしたら、妖精さんたちに止められたの。」

「ええ・・・? 妖精なんて、この町にいたかねえ・・・」


「うん。すごくきれいな人だったの。

 でも、妖精さん。」

「んん・・・? それはもしや・・・」


「それでね、その妖精さんと、一緒にいた人達が、

 昨日と今日おうちに来て、お父さんとお母さんと話してたの。」

「・・・! それで、他に何かなかったかい?」


息を呑むような音が聞こえてくる。

話す声もはっきりとしてきて、もう近いのだと感じさせる。


「妖精さんのお友達が、これをくれたの。

 私を守ってくれるんだって。」

「・・・・・・そうかい・・・

 これを作ったのは、あなた達かね?」

「あっ! 妖精さん!」


お守りから聞こえてくる音が、実際の話し声に代わり、

小走りで到着した私達を、おばあさんの姿をした霊体と優子ちゃんが見つめる。


「ユウコさん、こんにちは。」

「こんにちは!」


「はじめまして。

 優子さんのひいおばあさん・・・良子さんですね?」

「ああ、その通りだよ。

 とはいっても、今は幽霊ってところだけどねえ。」

優子ちゃんがソフィアに話しかけている間に、

私と美園、そして遥流華はるかさんが、良子さんの霊に向かい合った。



「占い師の遥流華と申します。

 この度は横山様・・・貴方にとってのお孫さん達から、

 調査のご依頼をいただきまして・・・」

まずは実際に依頼を受けている、私達の代表者と言えるだろう遥流華さんが、

良子さんに事情を説明してゆく。


「調査に同行しております、麗鹿うららか神社の巫女、美園と申します。

 優子さんにお渡しした御守りについてですが・・・」

「美園の友人で、そちらのソフィアと共にお手伝いをしている、灯といいます。

 心得がありまして、御守りについては私達の手も入っているのですが、

 このような形になりまして、ごめんなさい。」

「いいんだよ。本当にあの子のことを心配して、

 作ってくれたもののようだからね。」


優子ちゃんを保護したあの夜、ソフィアが主に話し相手になる中、

車の助手席で、すぐに準備を始めたのは美園だった。


以前から悪霊の調査もしていたから、用意は普段からしているそうだけど、

短時間で手際よく、途中でこっそり私達の力も込めて、

万一の場合には、すぐ駆け付けられるような御守りを作れたのは、本当に良かった。


その時は優子ちゃんの背景を知らなかったから、

こうして盗み聞きをするような形になってしまったのは、申し訳なかったけれど。

こちらに悪意が無いことは、良子さんも分かってくれたようだ。



・・・それはそうとして、私達が昨日からこの異変を調べて分かった、

大切なことを伝えなければいけないのだけれど。



「良子さん、大変申し上げにくいのですが・・・」

遥流華さんが私達に目配せをしてから、語り出す。


「横山様や、町の方々にお話をお聞きした結果、

 初めは優子さんの姿が時々見えなくなるだけで、

 それ以外の異変に気付いた方はいないようでした。しかし・・・」


それは、宿の人達からも聞いた話。

陽炎に交じり、『よく分からないもの』を目撃した人が増えている。


もちろん、町の人全員に話を聞けたわけではないけれど、

この空間が少しずつ拡がり、普段から『視える』人以外の目にも、

触れるようになってきていることは推測できる。


「もし、このまま異空間を放置した場合、

 町の人達が取り込まれ、心身に悪い影響が出ることも予想されます。」

「・・・・・・ああ、私も、

 もしかすると、そうじゃないかとは思っていたよ。」

私達の結論に、良子さんがうなずきつつ、

少しだけ沈んだ表情を見せる。


「その、この空間が消えれば、良子さんは・・・」

「ああ、ここに来たのは、私がこうなって間もない頃に、

 偶然入り込んだんだけど・・・今はここに居すぎただろうからねえ。」

うん、それは私達の推測とも一致している。

そもそも、この異空間が出来たのは、

良子さんが亡くなったばかりの頃の可能性が高いのだ。


本来ならば、既にこのような形では残っていない魂が、

この場所だから、今こうして存在できている・・・

そうでなければ、私達はもっと頻繁に、

良子さんのような存在と出会っていることになるだろう。



「・・・良子さん。」

「ああ、どうすべきかは私も分かってる。

 それじゃあ、ひ孫と少しだけ会話させてもらおうかね。」

そう言いながら、私達に向けられた表情は、

もう決意を固めたものに見えた。

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