第43話 依頼者

「娘を助けてくださって、本当にありがとうございます!」

異空間の中で女の子を保護した後、無事に外へと繋がる道を抜け、

お家の場所を聞き出して連れていったところで、

私達はご両親から、すごい勢いで頭を下げられている。


いや、この子のことを本当に心配していたみたいだし、

無理もないか・・・


「ほら、優子もお礼を言いなさい。」

「むう・・・あ、ありがとう・・・」

どうやらご両親と喧嘩をして、お家を出てきてしまったらしい、

この女の子・・・優子ちゃんは、

まだ言われることに対して、棘が残っている様子だけど。



「どういたしまして。それから・・・」

ソフィアがすぐに応えて、女の子と同じ目線に身をかがめる。


「お父さんお母さんや、大切な人達に、

 心配をかけてしまったら、『ごめんなさい』ですよ。」

「う、うん・・・ご、ごめんなさい・・・」

きっと、元いた世界でも何度もしてきたのだろう、

柔らかい表情で諭すと、優子ちゃんもすぐにそれを受け容れて、

ご両親もほっとした表情だ。


いや、ついさっき会ったばかりの相手の言葉を、

一番に聞くのは、それはそれで心配になるのだけれど。



「あの・・・ところで、三丁目の横山さんというのは・・・」

「ええ・・・うちのことですが・・・」

うん、家の表札を見た時から、遥流華はるかさんがそわそわした表情に見えたけれど、

話を聞けば、そもそもここまで来るきっかけになった依頼というのは、

この家からのものだったらしい。


って、急にいなくなったり、戻ってきたりする子供というのは、

もしかしなくても、優子ちゃんのことだよね?

まあ、これはこれで、事情を聞く手間が少し省けた・・・と言えるのかな。



「それでは、詳しい話はまた明日にということで。」

「ええ、本当にありがとうございました。

 今夜は向こうの通りの宿に泊まるのでしたね。

 電話は入れておきましたので、ごゆっくりお向かいください。」

「えっ・・・! あ、ありがとうございます。」


時計を見れば、宿泊の手続きをするには、少し遅い時間かもしれない。

もちろん、迷子らしい女の子を見付けて、

時間のことを気にするはずもなかったのだけれど、

依頼者さん達のほうで、気を遣ってくれたようだ。


見方を変えれば、ここは地域の人達の結びつきが強い場所なのだろう。

都会などから引っ越してきて、そういうものが苦手に感じる人もいるそうだけど、

少なくとも今の私達は、それに助けられていると言えるようだ。



「妖精さん、行っちゃうの・・・?」

遥流華さんを中心に、挨拶を交わしていると、

優子ちゃんがソフィアのほうへ歩いてきて、寂しそうに声をかけてくる。


さっきご両親に挨拶をしたのは聞こえていたと思うけど、

ソフィアへの呼び方は、相変わらず『妖精さん』だ。


「まだ何日かはこの辺りにいますから、また会いましょうね。」

「むう・・・・・・」


「私という妖精には、一緒にいなければ、生きてゆけない人がいるのですよ。」

まだあきらめきれない様子の女の子を前に、ソフィアが私の腕に抱き付いてくる。


うん、周りの人達も含めて、驚いたり顔を赤くしているのが見えるけれど、

私がもちろん気にするはずはない。すぐ傍にあるソフィアの頭をそっと撫でる。


「そうだ、優子さん。これはお守りよ。

 あなたが言う妖精さんと私達の力を込めているの。

 よかったら持っていてね。」

「う、うん・・・」

割とすごい空気になっているのを、美園が無理矢理まとめるように、

女の子に小さなプレゼントを渡す。


その勢いでご両親にも挨拶をして、私達はこの家を後にした。

・・・これは美園にお礼を言ったほうが良いだろうか。



「今日は色々あったけれど、宿にも向かわなければいけないわね。」

「ええ、本当に色々ありましたね・・・」

辺りはすっかり暗くなった中で、

遥流華さんと美園が、少し息を吐きながら、車へと乗り込む。

こちらにも視線がちょっと向けられたのは、きっと気のせいだろう。


「ソフィア、少し疲れてる?」

「いいえ、大丈夫ですよ。

 でも、もう少しこうしていたい気分です。」

私とソフィアも、腕を絡め合ったまま、それに続き、

車はすぐ近くの宿へと走り出した。

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