第40話 窓から見える景色
「よろしくお願いします、
「ええ。こちらこそ、よろしくね。」
依頼の話を受けた翌日、学校が午前中で終わるのを利用して、
私達は早速、出発の時を迎えようとしている。
「これが自動車というものですか。
よく目にしてはいましたが、乗るのは初めてです・・・!」
「うんうん。今日はやっと、ソフィアと一緒に乗れるね。」
「はい、アカリ・・・!」
「えっ・・・! ソフィアさん、初めてなの?」
自家用車で私達が住む町まで来てくれた遥流華さんが、
その車に目を輝かせるソフィアに、少し驚いた様子だ。
「正確には、バスならあるといえばあるんですが、
その時は学校行事で、ソフィアには私の中にいてもらいましたので・・・
実際、初めてという気持ちが強いでしょうね。」
「は、はい。アカリの言う通りです・・・」
「ああ、なるほどね・・・学校でというと、大型バスかしら。
自動車だと乗った感じもまた違うでしょうから、
その辺りも、ソフィアさんに楽しんでもらえると良いと思うわ。」
「はい! ありがとうございます、ハルカさん。」
「それに、この町までわざわざ来てくれて、ありがとうございます。」
「いえ、そもそもこちらから依頼の話をしたのだし、当然よ。
あとは、もし現地集合なんてことにしたら交通費が・・・何でもないわ。」
うん、聞こえなかったことにしようと思うけど、
今回の目的地を考えると、電車も速くてお高いのに乗ることになりそうだから、
それを複数人分なんてことになったら、大人でも大変なのは想像がつく。
「お待たせしました、遥流華さん。荷物はこれで全部です。」
そんなことを考えていたら、
美園が神社の中から、大きめの荷物を持って出てきた。
今回は遥流華さんのところに持ち込まれた相談を、
旧知である美園の神社・・・というかご両親にも協力してもらい、
解決するという形になっているようで、
私とソフィアが来る前から、大人の事情込みの話もしていたらしい。
まあ、私達はあくまでもお手伝いということで、
その辺まで深入りしなくていいという、美園の言葉に甘えようと思う。
「ありがとう、美園さん。大きいものは後ろに入れるわ。
それから・・・助手席で良いかしら。」
「ああ・・・把握しました。もちろん大丈夫です。」
うん、最後のほうで何か通じ合っていた感があったのは、
きっと気のせいだよね・・・
*****
「ここから、速く移動するための道に入るよ、ソフィア。」
「はい・・・・・・!
この前よりも、外の景色や自動車が近いです。
楽しいです、アカリ・・・!」
「ああ、宿泊学習のバスのことね。
確かにあれは外が遠いし、このほうが速く走ってる実感もあるわよね。」
「うんうん。本当は電車だって速いはずなのに、
慣れてくると、そこまで感じないのは何でだろうね。」
「そういえば、都会の電車は人が多すぎて、
外を見る余裕は、あまりありませんでしたね・・・」
出発からしばらくして、私とソフィアは後部座席で、
美園は助手席で、周りの景色を見ながら話を続ける。
「ところで、遥流華さん。
さっきから妙に静かじゃないですか・・・?」
「え、ええ・・・高速で運転するのは久し振りだから、
少し緊張してね・・・」
「「・・・・・・!」」
「え・・・アカリ、ミソノ・・・?」
「い、いや、少しばかり身の危険を感じただけだよ。」
「最悪の場合は、命の危機とも言えるけどね。」
「ど、どういうことですか? ここは戦場などでは・・・」
「向こうの世界で最後に戦ったあれが、全速力で突進してくるのを、
正面から受け止めることを想像してみて。
ここではみんな凄い速さだし、操縦がぶれて壁とか他の車にぶつかったら、
逃げ場が無いんだよね。」
「そ、それはいけません・・・!
この車の周囲に、何者も寄せ付けないような結界を・・・!」
「待って、それで周りの車を弾き飛ばしたりしたら、
別の大問題が起きるから・・・!」
ソフィアが慌てて結界を張ろうとするのを、美園と二人で何とかして止めた。
遥流華さんはきっと、その間も前だけを見ていた。
「・・・すみません、取り乱しました。
この車の中を、衝撃を和らげる結界で覆いましたので、
もし何かあっても、危険は少ないはずです。」
「うんうん、それくらいで十分だよ。」
「それでも、もし本当に何かあった時、
中が無事すぎて怪しまれる気はするけどね・・・」
まあ、美園の言う通りだけど、私達の安全には換えられないよね。
「心配をかけてしまって悪いわね。
だんだんと慣れてきているとは思うから、
その結界のお世話にならないよう、慎重に運転するわ。」
「いえ、そもそも遥流華さんしか運転できる人がいないというのも、
負担をかけてしまっていますから。」
「休憩所は所々にあるはずですから、十分に休んでくださいね。」
うん、本当は交代で運転出来れば良いのだろうけれど、
私も美園もまだ免許を取れる年齢になっていないし、
異世界生まれのソフィアは、まず身分証明の問題がありそうだからね。
私達は先を急ぎ過ぎないことにして、
初めて見る休憩所の施設に、目を輝かせるソフィアに説明をしつつ、
目的地へと向かった。
*****
「そろそろ着くけれど・・・だいぶ暗くなってきたわね。」
運転席から遥流華さんが言う通り、
少し前に日は沈んで、辺りは昼から夜の景色へと変わろうとしている。
「今日は町の中にある宿に泊まるんでしたよね。」
「ええ。ただ、細い道が多いそうだから、
近くにある公園の駐車場に止めて、道を確認するわ。
そこがこの辺りで、一番広い場所らしいから。」
美園と遥流華さんが、この後の話をしているけれど、
私達の住んでいる地域よりも、少しばかり小さな町らしい。
それはそれで、素朴な良さがあったりするのかもしれないけれど。
大通りを曲がると、道はやっぱり細くなって、
辺りも急に暗く感じてくる。
町に灯る明かりは、今進もうとしている方とは反対側だ。
「この坂を上がったところが、公園の駐車場ね。
暗いから慎重にいきましょう・・・」
「「っ・・・!?」」
遥流華さんが少し足に力を込めて、車を動かしただろうその時、
周りに違和感を覚えて、私とソフィアは目を見合わせた。
「美園、遥流華さんも、何か変な感じがしませんか?」
「ええ、そこまではっきりしたものではないけれど、
確かに感じるわ。」
「えっ・・・車を止めてから、集中してもいいかしら。
・・・・・・ああ、確かにね。」
少しだけ遅れて、美園も遥流華さんも気が付いたようだ。
「まずは周りを確認して・・・
ねえ、ソフィア。あっちのほう・・・!」
「はい、アカリ。確かに違います。」
「えっ・・・! 灯、ソフィア。
そっちのほうは見てなかったけど、何かあったの?」
「私も運転に集中していたから、その辺は力になれそうにないわね・・・」
「向こうに見える町の明かりが・・・」
「先程までよりも、多く見えています・・・!」
窓の向こうに見える、少しだけど確かに違う景色を見ながら、
この町の異変に早くも出会ったことを、私達は感じていた。
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