第6章 ゆらめきの向こうに

第39話 新たな依頼

「ふああ・・・やっと試験が終わった・・・!」

『お疲れ様でした、アカリ。』

数日に渡る試験期間が終わり、大きく伸びをしたところで、

私の中からソフィアが話しかけてくる。


「ありがとう、ソフィア。

 教室がずっと張り詰めた空気だったから、見てるのも退屈だったよね。」

『いえ、私も問題の答えを考えたり、

 アカリ以外にも、周りの生徒達がどのような回答を書いているか、

 眺めたりしていましたので。でも、ありがとうございます、アカリ。』

うん。ソフィアの力があれば、周りの答案を確認するくらいは簡単だろう。


実は私も、向こうの世界で魔法は学んでいるので、

同じようなことを、やろうと思えば出来るけれど・・・

ソフィアに本気で怒られそうだから、実行に移すことはもちろんない。


「そうだ、ソフィア。

 最後は私の苦手科目だったけど、どれくらい正解出来てたと思う?」

『そうですね・・・私も全ての回答が分かるわけではありませんが、

 おそらくは6割程度でしょうか。』


「おっ・・・! 結構出来てるね。

 これも復習に付き合ってくれたソフィアのおかげだよ。ありがとう!」

『ど、どういたしまして・・・

 その、私には評価の基準が分かりませんが、

 アカリはそれで良かったのでしょうか。』

うん、ソフィアも知ってはいると思うけど、

私は得意分野と不得意分野の差が激しいから、心配させてしまっているようだ。


そもそも、向こうの世界での魔法はともかく、

科目によっては、私の中で授業を聞いているソフィアのほうが、

理解が早かったりするからね・・・

でも、今回は間違いなく前進できた気がするし、良い結果と言えるのだけど。


「大丈夫よ、ソフィア。

 今までの灯は、苦手科目は赤点を取らなければいい、

 くらいの考えでいたんだから。」

その辺りをソフィアに説明しようとしたら、背景をよく知る美園が声をかけてきた。

お揃いのパワーストーンで、さっきまでの会話も聞こえていたことだろう。


『えっと・・・ミソノ、アカリ。その『赤点』というのは?

 良くないものだというのは、何となく分かりますが。』

「そうだね。簡単に言えば、補習を受けることになる点数かな。」

「もっと言えば、その補習も受けずに一定数の科目を放置すれば、

 進級や卒業できなくなる点数かしら。」


「アカリ・・・・・・?」

うん。姿は見えなくとも、どんな表情をしているかは想像がつく。


「大丈夫だよ、ソフィア。

 本当に進級できなかった人は、私が入学して以来聞いたことが無いし、

 ソフィアに手伝ってもらうからには、

 そこまでの点数は絶対に取らないつもりだから。」

「アカリ・・・! ありがとうございます。

 私も、分かりやすく教えられるよう頑張りますね。」

「後者については良いとして、あんたも私も二年生なんだから、

 『入学して以来』って、分かるのは一年間だけでしょ・・・!」

うん、余計なことに気付かなくていいんだよ、美園。



「それはそうとして、お疲れ会でもする?

 明日は午前中だけで、そのまま連休だから、

 今週はもう終わったようなものだし。」

「ああ・・・それもいいと思うけど、家の事情でね・・・

 というより、明日にはあなた達にも話すことになると思うけど、

 遥流華はるかさんから連絡が来てるのよ。」

『えっ・・・! それでは、ミソノ。

 頼んでいる呪具の調査のことで、進展があったということですか?』


「うーん・・・それ以外でも、うちの神社に相談が入ったりはするから、

 別の用事かもしれないけどね。

 ともかく、その場合も進み具合については聞いておくから、連絡するわ。」

「うん! 楽しみに待ってるね、美園。」

「よろしくお願いします、ミソノ。」

そうして私達は、帰り道の途中で別れ、それぞれの家路についた。



*****



「それで、まだ今日のうちに連絡があるって、

 何かあったのかな? 美園。」

「ええ・・・急で悪いけれど、遥流華さんから依頼を受けたのよ。

 灯とソフィアも、良かったらどうかと思って。」

私達が夕食を終えて、ゆったりと時間を過ごそうとしていた頃、

不意に携帯が鳴ったのは、美園からの電話だった。


「つまり、例の呪具絡みってこと?」

「それもそうなんだけど、依頼を受ける場所のこともあってね・・・

 遥流華さんの車で、少し遠出をすることを検討しているの。

 都会からは少し離れた、伝統的な文化もあるところよ。」


「なるほど。それはソフィアと一緒に行ってみたいところだね。

 そうでしょ?」

「はい・・・! 私も行って良いのであれば、ぜひ・・・!」

「ありがとう。遥流華さんとうちの親にも、そう伝えておくわ。

 私としても、二人がいてくれたほうが心強いわ。」


「うん、任せて。悪霊絡みの事件であればしっかり祓って、

 伝統的な文化のほうも、ソフィアに楽しんでもらおうか。」

「ありがとうございます、アカリ・・・!

 私も頑張りますから、よろしくお願いします、ミソノ。」

「ええ。今回もよろしくね、二人とも。」



「さっき、美園さんから聞いたわ。

 灯さんもソフィアさんも、ありがとう。」

少し経って、遥流華さんも美園と一緒に、

私達に電話をかけてくる。


「早速だけど、今回の依頼について説明させてもらうわね。」

うん。私達の中では、ソフィアと一緒に出掛けるということで、

頭の半分以上を占めていた気もするけれど、

そちらの話ももちろん、大事なことではある。


「見えないものが見える、ということは、

 二人なら慣れているかしら。」

「はい、もちろんです。」

「ミソノが言う、『霊的存在』というものは、

 見えない人のほうが多いのでしたね。」

例えば、この前の宿泊学習で出会った、泣いていた『子供』は、

周りの生徒達には、ただ風が荒れ狂っているようにしか見えなかっただろう。


いわゆる『霊感』と呼ばれるものや、

ソフィアの元いた世界で、精霊を感じ取る力が無ければ、

それを視ることは出来ないようだ。


「ええ。ソフィアさんの言う通り、

 その辺に霊的存在が浮かんでいて、特定の人だけが見えるというのは、

 そこまで珍しい話ではないと思うわ。」

遥流華さんが一つ息を吸ってから、言葉を続ける。


「でも、子供が少しの間いなくなって、戻ってきたと思ったら、

 今はあるはずの無い景色について、語り出したとしたら・・・?」

「「え・・・!?」」

私とソフィアの声が重なる。


そして、私達が向き合うべき新たな依頼について、

遥流華さんの話にしばし聞き入ったのだった。

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