第38話 二人の結び
「ようやく、私達の家が近付いてきましたね。」
都会からの帰り道、また短くはない時間を電車の中で過ごし、
あと数駅というところで、ソフィアがぽつりと口にする。
「うん。一泊してきただけのはずだけど、
色々なものを見たせいか、久し振りに感じるよね。」
少し待ち遠しい気持ちは、私も同じだから、
隣にいるソフィアの手を、静かに握った。
「確かにそうだけど・・・ソフィアが『私達の家』って言うのを、
珍しいと思ったのは気のせいかしら。」
「あっ・・・! そういえば、初めてかもしれません。
正確には、アカリの家と言うべきでしょうけど。」
「あはは、そんなの気にしないでよ。
私にとっては、もうとっくに『私とソフィアの家』なんだから。」
「あ、ありがとうございます、アカリ・・・!
それとですね・・・この旅で、アカリやミソノが住む町とは大きく違う場所に、
たくさん触れたことで、もうすぐ着く場所もまた、
自分の帰る場所なのだと思えた気がします。」
「うんうん。それなら私としても、ソフィアを旅に連れ出して、
本当に良かったかな。」
「もちろん、アカリのいる所が、
私の帰る場所であるのは、言うまでもありませんが。」
ソフィアがそう言いながら、
私がさっき握った手を、強く握り返してきた。
「はいはい、もう慣れてきたわね。」
美園がちょっとため息をつきながら、手にした紙袋を持ち上げる。
「ところで、
まずは二人に渡しておくわ。」
「えっ・・・良いのですか?
ミソノのほうが、そういったものには詳しいのでは。」
「ええ。そのおかげで、もう読んだことがあるものも多いのよ。
それでなくとも、布教目的って言ってたから、
まずは知らない人に触れてもらうのが、いいと思うわ。」
「えっと・・・『ラビットクラン』に、
『シルバースプリット』と、『トリオ・デ・クラシカ』か。
私も全部じゃないけど、名前くらいなら知ってるよ。」
別れ際、遥流華さんがもう一度書店に駆け込んで、
もし趣味が合えば・・・と渡してくれた、お薦めの本を見る。
「布教目的・・・布教とは、向こうで私が居た神殿もやっていた、
あのことでしょうか。」
「ああ・・・同じようなものではあるけれど、こっちのは例えみたいな言い方かな。
ほら、あのたい焼きのお店の人みたいに、
自分が好きなものを、周りにも楽しんでもらえると嬉しいんだよ。」
「な、なるほど・・・それでは、ありがたく読ませてもらいます。
これもまた、こちらの世界の勉強になるでしょうか。」
「あはは・・・全部そっちに結び付けなくても、
純粋に楽しんでいいと思うよ。
・・・もしかすると、美園とは深い話もしたいのかもしれないけど。」
「ええ・・・『ラビットクラン』なら、多少は出来るわ。
話の方向性が嚙み合えば良いけどね。」
「ああ、その辺りがずれると、大変だって言うよね。」
「そ、そんなこともあるのですか・・・」
「ああ、ソフィアはまだ、気にしなくても良いところだよ。
何にせよ、遥流華さんとはまだ会話が足りていない気がするから、
あの人なりに、自分のことを伝えようとしてるんじゃないかな。」
「そうね。少なくとも、悪い人ではないと思うわ。」
「はい・・・! 私も同感です。」
そうして、遥流華さんのお土産は私とソフィアの手に渡り、
美園を神社の前で見送った後、私達は家に帰った。
*****
「なるほど、この二人は血の繋がりはありませんが、
姉妹の誓いを結ぶのですね。」
「うん。私の知る限り、特に人気の高い登場人物だと思うよ。
二人が一緒に描かれた絵を、よく見かける気がするしね。」
帰宅後、簡単に夕食を終えて、
ソフィアが早速、遥流華さんお薦めの本を読み始めている。
「あれ・・・? アカリ。
私達はどこかで、同じような話を聞いたことがありませんか?」
「ああ・・・向こうの世界の『火の指揮者』と『土の護り手』の伝承じゃないかな。
二人は従姉妹同士で、互いの父親が都市国家の管理者の兄弟だったから、
早くから跡目争いに巻き込まれて、取り巻き同士が対立してたけど、
当人同士は強い絆で結ばれてて、二人は『姉妹』だと誓い合ってた。」
「そうでした・・・! 最後には争いの黒幕を排除し、
都市国家を議会による運営に引き継いで、仲間達と共に旅に出るのでしたね。」
「うんうん、六人の英雄達の話の一つか・・・
向こうでもこっちでも、そういう話って人気があるのかな。」
「はい・・・! 物語を楽しむ気持ちは、
世界が変わっても同じなのかもしれませんね。」
二人で笑い合ったところで、ソフィアが思い出したように、
表情を改めて私に言う。
「そういえば・・・これは二人の時に聞きたいと思っていました。
ハルカさんに言っていた、私達が一心同体とは、どんな意味でしょうか。」
「そうだね・・・じゃあ、検索したのを見てもらおうかな。
私の思いだけじゃなくて、多くの人が知ってる言葉だから。」
そういって、ソフィアが見ている前で、
その文字を打ち込み、検索結果を表示する。
すぐに表示された、細部こそ違えど同じ意味を示す文章に、
ソフィアの表情が変わってゆく。
「嬉しいです、アカリ・・・!
先程の物語や伝承の二人のように、私達はなれているでしょうか。」
「うん。もうとっくに、なってるに決まってるよ。」
「ありがとうございます!
そういえば、私がアカリの中にいる時は、
同じ体を共有しているとも言えますよね。」
「あはは、それは確かにそうだけど、
私はこうして、ソフィアと向き合って話せるほうが良いかな。」
「はい・・・! では、アカリ。
これでより一心同体、でしょうか。」
ソフィアがそう言って、私に体を寄せ、
そのまま両腕でぎゅっと抱き着いてくる。
「うん。私もこうしていると、
もっとソフィアと一緒にいる気持ちで、嬉しいよ。」
私もその上から、片腕でソフィアの身体を抱き締めながら、
二人で顔を寄せ合ったまま、本の続きを読み始めた。
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