第37話 邂逅

「と、とりあえず、人の少ない場所に行きましょうか。」

「そ、そうね・・・」

美園が気を遣ってか、率先して遥流華はるかさんとの話を進めてくれている。


確かに、私とソフィアはまだ警戒を解いていないし、

もともと、美園の家でもある神社との繋がりで、

会うことになっていたのはこの二人だから、それが自然かもしれない。


「それなら、ソフィア。お願いできる?」

「はい。もちろんです、アカリ・・・!

 ミソノ、ハルカさん、こちらが良いと思います。」


とはいえ、別にやましいことは何もしていないけれど、

一般の人達に知られれば、騒ぎになりそうなのは私達だし、

遥流華さんも色々と人みたいだから、もう隠すのは止めにしよう。


「あれ、この建物って・・・・・・」

「今日はイベントの開催などは無かったはずよ。

 確かに、ここの裏手あたりなら静かそうね。」

そうして、ソフィアが見付け出した場所で、

美園と遥流華さんが何やら通じ合っているようだ。


いや、私にも内容の想像がつかないわけではないから、

話しやすくなった・・・というところかな。



「じゃあ、場所はここでいいかな。

 ソフィア、強めに認識阻害をお願い。」

「はい、アカリ・・・!」

ソフィアが私達の周囲をすっぽりと覆うように、認識阻害の魔法を展開してくれる。


普段からよくやっていることではあるけれど、

初めての人もいるから、しっかりと伝わるようにしておいたほうが良いだろう。


「これは・・・! 凄いのね、守護霊さん。」

私達の狙い通りに、遥流華さんが驚いた様子で、辺りを見回している。


「これで、大きな声や動きでもない限り、

 周りの人達はこちらを認識できなくなりました。

 他人には聞かせにくいような話も、大丈夫ですよ。」

簡単に説明したところで、お話を始めようか。



「それでは、改めて紹介させてください。

 守護霊というのも、大きく外れているわけではないですけど、

 彼女は、私と一心同体の相棒、ソフィアです。」

「初めまして、ハルカさん。よろしくお願いします。」

もう名前くらいは聞かれている気もするけれど、

こういうのは、ちゃんとしておいたほうが良いと思うので、

ソフィアと並んで礼をする。


「ソフィアさんね。では私も改めて・・・占い師の遥流華よ。

 一般の方達向けに、運勢の話なんかもしているけれど、

 いわゆる霊感というものもあるから、

 麗鹿うららか神社さんには、そちらのほうでもお世話になっているわ。」

遥流華さんも、ソフィアが私の中から聞いていたのは分かっているはずだけど、

美園との関わりも伝えながら、自己紹介をしてくれた。


・・・まあ、本題はここからなんだけど。


「ところで、遥流華さん。

 さっきはあの書店で私達と出会ったり、美園と話も合っているようでしたが、

 この辺りの文化には詳しいんですか?」

「え、ええ、その通りよ。」

なんだろう、微妙にダメージが入ったような表情をしているのは。


「・・・・・・」

ふと横を見れば、美園も巻き添えを食ったような様子だ。

こういう趣味の場所で、職場の人とばったり会ったりすると気まずいという話を、

どこかで聞いた気がするから、そんなものだろうか。


私は美園から、「あんたはもうちょっと気にしなさい・・・!」とか、

時々言われるほうだから、その辺りは鈍いのかもしれないけれど・・・

そもそも、趣味の話をするために、今の話題を出したわけでもない。


「では、『異世界転移』という言葉も伝わりますよね?」

「ええ、そういった作品に触れたこともあるわ。」


「それを、現実に経験しているのが、

 私とソフィアなんです。」

遥流華さんに向けて口にしながら、

ソフィアと目を合わせ、うなずき合った。



召喚サモン、ソフィア!」

「・・・!!」

私達の目の前で、遥流華さんが目を見開くのが分かる。

それも当然だろう。私の言葉と共に、ソフィアの姿が光に包まれ、

異世界の神官服を纏って、再び現れたのだから。


「これが異世界・・・もっと詳しく言えば、

 私が魂の一部を喚び出されていた世界で身に付けた、向こうの召喚術です。

 ソフィアはそこで神官をしていて、私と出会ったんですよ。」

「・・・・・・ここまで見せられては、信じるしかないわね。

 私もこんな力は・・・ソフィアさんの姿もだけど、似たものを知らないわ。」


うん、ここまでやって、ようやく自己紹介をちゃんと出来た気がする。

遥流華さんは過去の経験などから、ソフィアを『守護霊』と呼んだのだろうけど、

私としては、それだけで片付けてほしくはないからね。


「ところで、今の話で気になったのだけれど、

 『魂の一部を喚び出される』って、どんな状況なのかしら?」

「それは文字通りと言いますか・・・

 私は、こちらの時間で一年間ほど、ソフィアと一緒に向こうに居たんですが、

 その間、自分の本体は何事もなく、学校に通っていましたね。

 戻って来た今は、両方の記憶がある状態です。」

「なるほど・・・それは興味深いわ。」


「ちょっと、灯・・・あんた、その魂の一部とやらが召喚された時に、

 生気が半分抜かれたような症状で、倒れたのを忘れてないでしょうね・・・!?

 誰が看病したと思ってるのよ。」

「ああ、うん・・・その節はご迷惑をおかけしました。」

「それについては、私からも本当にごめんなさい、ミソノ。」

「あっ・・・いいのよ。ソフィアが悪いわけじゃないのは聞いてるから。」


「ところで、美園。その話をするってことは、

 向こうに行ってた私が、戻ってきた時の話もする?」

「・・・・・・・・・出来れば、止めてほしいのだけど、

 何を言うつもりかしら?」


「いや、状況を説明するために家に来てもらったら、

 いきなり攻撃されたり、ソフィアを悪霊と言われたくらいかな。」

「それは本当に悪かったから・・・! 私も冷静じゃなかったから・・・!」

「まあまあ、アカリ。ミソノもアカリのことが心配だったのでしょうから。」

うん、ソフィアも止めてくれているし、

その日の詳細については、詳しくは語らないでおこう。


「ふふふっ・・・あなた達が本当に仲が良いのは分かったわ。

 ソフィアさん。私からも、簡単に守護霊だなんて決めつけて、悪かったわね。」

「いえ・・・そもそも、隠れていたのは私ですから。」

遥流華さんにも、私達のことは多少なりとも伝わったようだ。

ソフィアが此処にいることについての、もう少し詳しい話は、

またいずれ話すこともあるだろう。



「アカリ。『一心同体』の意味について、

 後で構いませんので、教えてくれますか?」

「もちろん。それじゃあ、帰った後にね。」


「・・・美園さん。あの二人って、もしかして・・・?」

「はい。遥流華さんの考えている通りかと。」

うん。話が終わって、ソフィアが嬉しそうに私に話しかけてきたら、

向こうでひそひそ話が始まった気がするけれど、聞かないでおこう。

美園にとっては、良い出会いなのかもしれないし・・・


少しずつ日が傾いてきたところで、

私達は今度こそ、帰りの電車へと乗り込んだ。

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