第31話 まだ知らないもの
「次の目的地は、すごく高い所から、
辺りの景色を眺められる場所・・・というのはどうかな?」
「景色を眺める・・・!
はい、行ってみたいと思います、アカリ。」
「ええ、私も良いと思うわ。」
ソフィアも美園も賛成してくれたところで、
今いる大きな駅からもそう遠くはない、展望台で知られた建物へ、
電車を乗り継いで向かう。
「アカリ・・・私達と同じ方向に進んでゆく人が、
多くいるように思えるのは、気のせいでしょうか・・・」
「ああ、気のせいじゃないと思うよ。
さっきの駅近くは、人が興味を惹かれる場所があちこちにあるから、
みんな思い思いに進んでいくだろうけど、この辺で一番有名な場所といえば、
私達が向かってる場所だろうからね。」
「これが平日で、学校へ行くくらいの時間なら、
同じように仕事で、あちこちの建物に向かう人もいそうだけど、
今で考えれば、観光の人が多いと思うわ。」
「なるほど・・・日や時間によって、そうした推測も出来るのですね。」
そんな会話を続けながら、前を行く人達の背中を追うようにして、
私達はその場所へとたどり着く。
「これは・・・いくら見上げても、
一番上がどのようになっているか、よく分かりません。
本当に、高い建物なのですね。」
うん、私や美園は写真で外観をよく知っているけれど、
こうして間近で見れば、その高さを実感する。
この地域全体を見れば、他にも高い建物が無いわけではないけれど、
辺りに立つ大抵のビルよりは、こちらのほうが高くて、
そうして集まるたくさんの人達を見ると、展望台って定番だけど、
惹かれるものがあるんだろうな・・・と改めて思う。
高いところといえば、宿泊学習でも山には登ったけれど、
あの時は神社のことや、最後に見上げた星空が印象に残っているから・・・
ソフィアにも一度、昼間の展望台の景色を、体感してもらうのも良いだろう。
「これは・・・高いところから景色を見ると聞きましたが、
この中には、お店もたくさんあるのですね・・・!」
中に入ってすぐに、ソフィアが辺りをきょろきょろとしながら言う。
お土産物屋さんは当然として、食事が出来る所も多く、
中には、ゲームセンターのような施設もある。
その気になれば、ここで半日とか一日過ごすことも出来そうだ。
「そういえば、昼食はどうするのですか? アカリ、ミソノ。」
うん、その中でも、食事処の看板をいくつも見て、
ソフィアがそわそわしてきたようだ。
確かに、ここでゆっくり過ごすとなると、
お昼頃になってもおかしくはないけれど・・・
さっきカフェに入って、飲んだり軽く食べたりしたばかりなんだよね。
「ソフィア、まずはこの上の景色を楽しんで、
それから決めるのもいいんじゃない?」
「はい・・・! そうですね。
ミソノも、それで良いですか?」
「ええ、私も構わないわよ。」
そうして、一番の目的である展望台へのチケット売り場に向かうけれど、
途中で様々なものに目移りしてしまうのも、確かではある。
そういえば向こうの世界でも、交通の要所であった所に市場が生まれ、
今では北の大陸で一番と呼ばれるほどになったという、
大都市の成り立ちを聞いたことがあった。
この場所も、初めは展望台だけがあったところに、
だんだんとお店が増えて、今のような形になったりしたのだろうか。
「アカリ・・・入場するための券が、2種類あるようですが。」
「ああ・・・一番高いところと、それよりも少し低いところで、
入場料金が違うみたいだね。」
「それなら・・・高いところのほうが楽しめるでしょうか。」
「ちなみに、そちらの料金は、
それなりに良い食事を3回くらい出来るわね。」
「えっ・・・・・・」
うん、これも商売ってやつかな。
こういうのに詳しいわけではないけれど、
これだけ大きなものの維持費が、安く済むとも思えない。
それはそうとして、私達は学生なりの決断をするとしよう・・・
*****
「これが、高い所から見る都会の景色なのですね。」
そして、たどり着いた展望台で、
硝子窓の向こうを眺めながら、ソフィアが楽しそうに言う。
「先程の人に溢れた場所といい、
私はこちらの世界に、知らないものが数え切れないほどあるのだと、
実感した気持ちです。」
「うん。私達もソフィアのことを案内なんてしてるけど、
実は分からないことだって、いっぱいあるよ。
ね、美園?」
「ええ。灯も私も、この建物の写真なら何度も見たことはあるけど、
展望台に上がったことは初めてだもの。
ここに来て良かったと思っているのは、ソフィアと同じよ。」
「そうなのですか・・・!」
ソフィアが少し、驚いたような表情で、
けれど明るい声で言った。
「でも、私のほうが、知らないことがずっと多いのも確かです。
あそこに、ここから見えるものの説明があるようですが、
少し教えてくれませんか、アカリ?」
「うん、もちろんだよ。」
私に向かって少し甘えるように、尋ねてくるソフィアに、
出来るだけ分かりやすいよう、この付近にあるものを説明する。
美園が約束している、呪具に詳しい人と会う時間には、
まだまだ早いから、ここからソフィアの気に留まった場所に、
次の目的地を決めるのも良いだろう。
「アカリ、あちらの方角に広がっているのは・・・」
「ああ、それはね・・・・・・」
「・・・!! あの、そこに行ってみたいです。
私の我儘ですが、構いませんか? アカリ、ミソノ。」
「そっか・・・! ソフィアのところは、そうだったもんね。
もちろんいいよ。」
「ちょっと予想外ではあるけど、私も構わないわよ。
ゆっくり出来そうだし、たまにはそういう場所で過ごすのも良いかしら。」
「ありがとうございます、アカリ、ミソノ。」
うん、美園は最初、少し驚いていたけれど、
私は事情を知っているから、その気持ちもよく分かる。
何より、ソフィアのきらきらした瞳を見れば、断るなんてしたくない。
こうして、私達の次の目的地は、思ったよりも早く決まったのだった。
「ところで、アカリ。私はとても楽しかったですし、
アカリもミソノもそうだったと思いますが、時折上から下りてくる人の中に、
もやもやとした気配が混ざっているのが不思議です・・・」
「ああ・・・こういうのは、合う人と合わない人がいるからね。」
「あとはね・・・私達はあまり使う機会の無い言葉だけど、
『費用対効果』って語られるものがあるのよ。
ご飯3回分くらいのお金を払って、楽しいと思えなかったとしたら、
どうなるか想像はつくわね。」
「あっ・・・・・・ご飯は、大事ですからね。
度が過ぎて悪霊になりそうな気配を見かけたら、私達が祓いましょう。」
「いや、そこまでの人はさすがにいないと思うけど・・・」
そんな周囲の気配を感じつつも、
お昼時が近くなり、だんだんと人も増えてきた建物を後にして、
私達は次の目的地へと歩き出した。
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