第24話 風の跡

『お疲れ様でした、アカリ、ミソノ。』

「ありがとう、ソフィア。私は大丈夫だけどね。」

「ええ・・・こちらも何とかなったようだわ。」

山頂にたどり着いたところで、

私の中から見守っていたソフィアが、私達に声をかけてくれる。


いや、学校の団体行動でもなければ、

私もソフィアを召喚して、さほど苦労せずに登り切っていたと思うけれど。


「結局は、だいぶ早めに着いたみたいだね。」

「ええ。灯に付いて行けば、自然とそうなるわ。」

『他の人達が到着するまで、ここで待つのですね。』

「体力を回復するには、正直ありがたいわ・・・」


そうして、鳥居の前でしばらくの時間を過ごし、

全員が集合したところで、参拝手順などの説明を受けて、

私達は列になって鳥居をくぐった。


『何と言いますか・・・お参りの作法について説明はあったはずなのに、

 人それぞれ、なのですね。』

『うん。私は子供の頃から、美園の神社によく行っていたし、

 今では神様の力にも触れているから、疎かにするなんて絶対に考えないけど、

 そこまで深く思わない人も、少なくないだろうね・・・』

『でも、それは私達が強制するものでもないのよね。

 正しい作法というものもあるけれど、気持ちを持った上で、

 来てほしいとは感じているわ。』


自然と周りの生徒達の様子も見えるので、

念話で話しながら、考えてしまうこともあるけれど、

きっと、どう思うかは本当に人それぞれなのだろう。


もしも全員が、心を込めてお参りするようなことがあれば、

そもそも、悪霊騒ぎのようなことも、無くなるのかもしれない。



*****



「美園は、自分の家が神社でもあるけれど、

 どんなことをお祈りする?」

「別に、神社同士で争っているわけでもないし、ご挨拶に来たような気持ちよ。

 そもそも、神社自体が複数の神様をお祀りすることも、珍しくないのだし。

 ・・・でも、あんたがそんなこと聞いてくるなんて、珍しいわね。」


「いや、私の中でソフィアがちょっと緊張してるから・・・」

『そ、その、私はもう色々と例外すぎるので・・・』


「まあまあ、私とソフィアは繋がっているんだから、

 二人で一緒に、ご挨拶に来ましたってお祈りすればいいんじゃない?」

「事情は把握したわ。私も灯に賛成ね。」

『は、はい・・・! そうしたいと思います!』


話もまとまったところで、本殿が見えてきたので、

美園と、私の中にいるソフィアと、三人一緒にお参りをする。

境内に吹く風は穏やかで、少なくとも拒絶のような気配はなく、

ソフィアもほっとしたようだった。



『あっ・・・あれは何でしょう。

 あそこだけ、色が違うように思います。』

やがて、全員の参拝が終わり、

お守りをお土産に買ったり、周囲を散策するなどの自由時間となったところで、

ソフィアが声をかけてくる。


「ああ・・・あの部分だけ木の素材が新しいんだね。

 補修でもしたのかな。」

「こっちに説明があるわ。去年の強風で被災したんですって。」


『強風で・・・? そこまでの風が、ここには吹くのですか。』

「ここというか・・・季節にもよるけれど、

 この国で強い風が吹くことは、時々あるんだよ。

 同じような被害も、ニュースで何度か見たことがあるね。」


『そ、そんなことがあるのですか・・・』

「まあ、今の時期では無いから大丈夫だけど・・・

 なになに、建物の傷などは修復したけど、古くからの飾り紐がいくつか飛ばされ、

 そのまま行方が分からなくなったものもある・・・と。」

「この神社とずっと共にあったものであれば、

 なんとか見つかってほしいという気持ちも分かるわね・・・」


『飾り紐・・・あの辺りに提げられているものが、

 そうなのでしょうか。』

「うん、あそこにあるのは新しそうだけど・・・

 あっ、奥のほうに、それらしきものが見えるかな。」

「・・・ええ、確かにあれには、歴史がありそうね。」

『はい・・・神社そのものだけではなく、

 あの飾り紐にも思いが宿っているような気配を感じます。』


「強風で飛ばされたものが見つかるのは、

 なかなか難しいと思うけど、出来れば戻ってほしいよね。」

「ええ、本当にそうね。」

『私も同感です・・・!』


少しばかり、しんみりとした気持ちにもなってしまったけれど、

この場所に吹く風はとても穏やかで、

最後にもう一度、神社に一礼をしてから、私達はこの場所を後にした。

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