幕間2 二度寝の朝に・・・

「ん・・・もう、朝かな。」

ぱちりと目が覚めて、今の時間に思いを馳せる。


少し・・・いやだいぶ疲れていても、

同じくらいの時刻に起きてしまうのは、

週の半分以上、学校というものに行っているせいだろう。


「うん・・・・・・おはようございます、アカリ。

 もしかして、待たせてしまいましたか?」

「おはよう、ソフィア。

 私もたった今、起きたところだよ。」

ほとんど時を置かずに、私の隣でソフィアも目を覚ます。


どちらかといえば、ソフィアのほうが早くなることが多いけれど、

同じくらいに目が覚めるのは、私達が繋がっている影響だろうか。

もしそうだとしても、それを感じられるのは、私達にとって嬉しいことなのだけど。



「・・・あ、アカリ、そろそろ支度を始める時間です。

 私は朝食の準備を・・・」

いつもより少しばかり、ぼんやりとした様子のソフィアだったけれど、

枕元の時計を見て、気を引き締めたようだ。

実のところ、今朝はその必要は無いのだけれど・・・


「ソフィア、今日と明日は学校が休みだから、

 ゆっくり寝ていてもいいんだよ。」

「あっ・・・確かに、昨夜そのように話していましたね。

 失礼しました。」


「ううん、気にしないで。

 私も結局、いつもと同じ時間に起きちゃったけど・・・

 昨日の夜は大変だったから、ソフィアも疲れてるでしょ?」

「はい・・・ミソノと三人での悪霊祓いに、

 お狐様からも力を授かったり・・・本当に色々なことがありましたね。

 確かに、目は覚めましたが、まだ十分に回復していない気分です。」


そう、昨日は不審火騒ぎを解決するための悪霊祓いで、遅くまで起きていたし、

それ以上に私もソフィアも、たくさんの力を使ったのだ。

短めの睡眠時間では、疲れが残っていても仕方ない。



「あっ・・・でも、アカリ。朝食は良いのですか?

 食事をしなければ、余計に回復が遅れるのでは・・・」

「うん。だから、美園の神社からの帰りに、

 終日営業のお店で買って来たパンが、役に立つわけだね。」

もぞもぞと起き出して、机に置いた袋を手に取り、

また布団の中へと戻る。


「あ、アカリ・・・?

 もしかして、このまま食べようというのですか?

 お行儀が悪いです・・・」

「確かにそうだけどね・・・休息を優先したい時くらいは、

 こんな風にしても、罰は当たらないんじゃないかな。

 ほら、ソフィア・・・」


「んむっ・・・きょ、今日だけですからね。

 それと、食べ物がこぼれたら、後できちんと掃除しましょう・・・!」

袋を開け、パンを少しちぎって、ソフィアの口元に寄せれば、

顔を赤くしながらも、それを受け止めてくれる。


「な、なぜこちらをじっと見るのですか、アカリ・・・」

「ううん、普段しないようなことをして、照れてるソフィアも可愛いなって。」

「もう、恥ずかしいのでやめてください・・・」

「あはは・・・ごめんね。」

そうして、二人で顔を寄せながらパンを分け合って、

簡単な朝食の時間を過ごした。



「それじゃあ、休みの日だからこそ出来る、

 こちらの世界で、二度寝と呼ばれることをしようか。」

「あの・・・アカリ。もう一度眠るだけですよね。

 それに行事のような呼び方が・・・?」


「確かにそうなんだけど、こんな言葉が広まるくらいには、

 休日にゆっくりしたい人は多いんだよ。」

「そ、そのような事情があるのですね・・・」

ソフィアが少し戸惑っているけれど、袋の片付けを済ませて、

もう一度眠りにつく体勢を整える。


「あ、あの、アカリ。

 しばらくの間、こうしていても良いですか?」

「うん、もちろんだよ。」

瞼を閉じようとした時、ソフィアが抱き着いてきたので、

私もいつものように抱き締め返す。


だけど、普段甘えてくる時とは少し違う気がして、

もしかしたらと思うことを尋ねた。


「ねえ、ソフィア。

 不安なことがあるなら、何でも話してくれていいんだよ。」

「はい、アカリ・・・」

ソフィアが少し口を噤んだ後、思い切ったように話し出す。


「その、アカリから見て、

 私は何か、変わってしまっていませんか・・・?」

「ソフィア・・・」

確かに、そう思ってしまう気持ちも、分からなくはない。


魂だけの存在となり、私と一緒にこちらの世界へ・・・

ソフィアにとっては『異世界』と言える場所へやって来て、

それから短期間のうちに、こちらの『神様』と呼ばれる存在から、

二つも力を授かることになったのだから。


だけど、私には絶対に言えることがある。

「ソフィアは何も変わらないよ。

 私を守るために命を落として、こっちの世界にまで付いてきてくれて、

 そして今も、一緒に居てくれている。

 どんな力を持ったとしても、ソフィアはソフィアだよ。」

「・・・! はい、はい・・・!

 アカリと共に居たい気持ちは、私もずっと同じです・・・!」

吹っ切れたように、私の身体に触れる腕の力が、少し強くなった。



「ソフィア、疲れていると不安な気持ちになりやすいって、

 こちらの世界で時々耳にすることなんだ。

 もしそうなら、ずっとこうしてていいから、今日はゆっくり休もうか?」

「はい・・・それでは、アカリの言葉に甘えたいと思います。」


「うん。それに私も、こうしていたいのは同じだからね。」

「ふふっ・・・嬉しいです。」


「それじゃあ、今は朝ではあるけど、

 おやすみ、ソフィア。」

「んっ・・・おやすみなさい、アカリ。」

そうして、ソフィアの頭を撫でながら、

互いにおやすみを伝え合って、私達はまた穏やかな眠りについた。

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