第18話 答え合わせ

「アカリ・・・無理はしないと、ミソノとも話したばかりですよね?」

家に帰ってすぐに、調べものを始めようとすると、

ソフィアが心配そうに話しかけてくる。


いや、これで済むならまだ良いけれど、

程々にしておかないと、怒られるか拗ねられるかしてしまうだろう。


「うん、なるべく手短に終わらせるつもりではあるけれど、

 早めに確かめておきたいことがあってね・・・」

ソフィアにも検索画面を示しながら、

美園の地図に書かれていた、先程の公園の名前と、

地名や『写真』といったキーワードも加えて、結果を確認してゆく。


公園の名前というものは、そこまで個性的でないことも多いけれど、

中には私達にとっての正解も、含まれているだろう。



「これは・・・昼間のようですが、あの公園ですね。

 過去に訪れた人が、記録したものでしょうか。」

やがて、時間帯こそ違えど、

先程まで居た場所だと断言できるような、目当ての画像が現れる。


「うん。写真が好きだったりして、

 こういう風に撮影したものを載せる人も多いからね。

 そして、その過去の記録が、今まさに調べたいものなんだよ。」

「そ、そうなのですか・・・?」


「ソフィア、さっき見つけた気配が急に消えた、

 それ自体の理由は、なんとなく分かるよね。」

「はい。術式は知っているものと異なるようですが、

 やっていることは私達と同じ、認識阻害の類だと思います。」


「うん、私も同感だよ。あの公園にはきっと、その術がかけられている。

 だけど、不審火の騒ぎが起きたのは最近のことだから、

 それよりも前の写真を見れば、欲しい情報が手に入るんじゃないかな。」

「あっ・・・! すごいです、アカリ!」

驚いた様子で私を褒めてくるソフィアの頭を、

ありがとうと撫でながら、目当ての公園の画像を抜き出してゆく。


いや、ソフィアのいた世界にこういうものが無かっただけで、

知識さえあれば、自分でこの調べ方にたどり着いていたと思うけどね・・・



「あっ・・・! 見付けたよ。

 公園の全景に、撮った人が気に留めた場所を、あちこち撮影してる写真。」

「では、ここにあの気配の手がかりが・・・?」


「うん。この辺はこういう風になっていて・・・

 これだ! 公園の奥、ちょっと小高くなっているところに、

 お稲荷様らしき社があるよ。」

「はい・・・! 確かに、先程見たものにも似ています。

 私が感じた気配のもとは、ここだったのですね。」


「うん、それで合ってると思うよ。

 だけど今は、おそらくは悪霊の影響で、

 人を寄せ付けないようになっている・・・」

「つまり、あの認識阻害は、悪霊に由来するものなのでしょうか。」


「いや・・・私の想像だけど、多分違うかな。

 お稲荷様というと、この国の人達がよく思い浮かべる生き物がいてね・・・

 それは、人を化かす・・・幻影などで惑わせる、と言ってもいいかな。

 そういう伝承が多くあるんだよ。」

「人を惑わす生き物、ですか・・・」


「うん。稲荷神社にとっては、神様の遣いとも言われているんだけどね・・・

 悪霊の影響を受けて、そういう側面が出てきてしまっているなら、

 不審火についても、もしかしたらと思うことはあるよ。

 その生き物の名前がついた伝承で、『狐火』というのがあるんだ。」

「『狐火』・・・その名の通り、火にまつわるものですか・・・

 この国の伝承を知らない私では、たどり着けませんでしたね。

 アカリのおかげです・・・!」

「いや、怪しい気配に最初に気付いたのはソフィアなんだから、

 元をたどれば、そのおかげだよ。」

ひとまずの結論にたどり着いて、私達は顔を合わせて微笑み合った。




「さて、次は対策を考えようか?」

「アカリ・・・時計を見て下さい。」


「あっ・・・も、もうちょっとくらい、だめかな?」

「早く解決したい気持ちも分かりますが、

 アカリが体を壊してしまっては、本末転倒です。」

うん、今夜はソフィアが許してくれそうにない。

あきらめて端末を閉じ、簡単に片付けを済ませて、寝床に入る。


「アカリ・・・無理に止めてしまい、すみません。

 でも、張り切りすぎているように見えましたので、

 休息もちゃんと取ってくださいね。」

「ありがとう、ソフィア。気を付けるね。」


ソフィアの気持ちが嬉しくて、

でも寝る前にまた色々と考えてしまい、眠りが浅くなる気もする、

ほんの少し複雑な気持ち。


「アカリ・・・」

それを見透かしたように、ソフィアが隣から抱き着いてきた。


「こうしたほうが、よく眠れたりはしませんか?」

私の頭を柔らかく包むように、抱き寄せてくる感触。

穏やかな声が、耳に心地よい。


「うん、確かにそうだけど・・・

 ソフィアが無理するのは、ちょっと違うかな。」

「えっ・・・?」

そっと腕の中から抜け出すと、

いつも通りに、私がソフィアを包むように抱き締め返す。


「あ、アカリ・・・」

「ソフィアもずっと歩き回って、

 探知や認識阻害の魔法を、たくさん使ってたでしょ。

 休むべきなのは、私だけじゃないと思うな。」


「で、ですが・・・」

「それに、これがお互い、一番落ち着くんじゃない?」

「は、はい・・・アカリの言う通りですね。」

顔を赤くしたソフィアと見つめ合って、おやすみの挨拶をする。

そして私達は、明日に向けての眠りについた。

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