第16話 消えた気配
「ねえねえ、聞いた?」
「また怪しい人が出たんだってね。」
「他校の子なんだけど、中学の同級生が夜中に大声を聞いたらしいよ。」
一夜明けて、今日も学校での時間を過ごしていると、
周りの生徒達から、不審火についての噂話が聞こえてくる。
「美園、気のせいかもだけど、
昨日よりも例の話題を聞くことが増えてない?」
「ええ、無理もないわ。
学校でも不審者に注意するよう言われてるし、
身の安全に関わることなら、気にする人も多いでしょう。」
『ミソノの言う通りかもしれません。
話している人達の気配を見てみると、不安げな気持ちが伝わってくるようです。』
ソフィアも私の中から、心配そうな声をかけてきた。
「早めになんとかしたいね。」
「ええ、そうね。」
『私も、アカリとミソノに同感です・・・!』
私達は別に、治安を維持するような組織でも何でもないけれど、
いつも通っている学校が、こんな雰囲気になって良い気持ちはしない。
「よし、今夜も頑張ろうか。」
『でも、アカリ。授業中の居眠りは控えてくださいね。』
「あんたねえ・・・・・・」
うん、寝不足だからそれは仕方ない、仕方ないのだ・・・
*****
「それじゃあ、今夜も出発だけど・・・
やっぱり、行く場所はあそこだよね。」
「ええ、単なる偶然の可能性もあるけれど、
闇雲に歩き回るよりは、良いと思うわ。」
「あの時、嫌な気配を見失った場所・・・ですね。」
昨夜と同じように、美園の神社の前に集まって、簡単に打ち合わせる。
ソフィアは、私の中にいたほうが良いかと尋ねてきたけれど、
差し迫った必要も無いのなら、やっぱり自分の身体で、
こちらの世界を感じてほしい。
「それでは、行って参ります。」
美園が鳥居へと一礼し、私達もそれに続いて、
深夜の町へと歩き出した。
「この辺だったよね、私が立ち止まったのは。」
「ええ・・・こっちは付いて行くのに必死だったけどね。」
「はい。そして嫌な気配は、このまま真っ直ぐ進んだまま、
私の感知範囲から離れてゆきました。」
今回は真っ直ぐに進んだおかげか、それほど時間をかけることなく、
昨日の場所へとたどり着く。
「それじゃあ、一日遅れだけど、その先を追うとしようか。」
「こんな時ですけど、アカリが教えてくれたゲームの、
セーブポイント、というのを体験している気持ちです。」
「ソフィアが順調に、この世界に染まってゆくのが見える気がするわ・・・」
雑談を交えながら、歩いてゆく私達の声だけが、深夜の道に響く。
いや、例によって認識阻害をかけているから、
周りには伝わっていないのだろうけど。
「うん・・・? 開けた場所に出てきたけど、これは公園かな。」
やがて、私達の前に現れたのは、
広めの敷地の中に、緑の葉を茂らせる木々や、木製のベンチも多く見られる場所。
「ええと・・・その通りよ。この辺りでは大きい部類のようね。」
地図を広げながら、美園がうなずいた。
「・・・・・・」
「うん・・・? ソフィア、どうかしたの?」
その会話に入ってこないソフィアを見れば、
少しぼうっとしたような表情で、気になって声をかける。
「あっ・・・いえ。ほんの少し、変わった気配を感じたのですが、
すぐに消えてしまったようで・・・」
「変わった気配・・・悪霊の影響じゃないのかな。」
「少なくとも今は・・・それは感じてはいません。」
「私も、何も感じないわね。
すぐに消えたというのなら、霊体未満の何かがいたりしたのかしら。」
「じゃあ・・・先へ進もうか。」
美園も首を傾げていたけれど、私も含めて今は何も感じないのは確かなので、
中を詳しく調べることはせず、前へと歩き出した。
「またしばらく歩いてきたけど・・・何も無さそうかな。」
「うーん・・・悪霊の影響を受けたと思われる人は、
途中で別の方向へ行ったりしたのかしら。」
「その可能性もあるのですね・・・勢い良く進んでいたので、
そちらの選択肢を、考えにくくなっていたのかもしれません。」
「まあ、最初は何の手がかりも無かったんだし、
この先に何もないと分かったとしても、前進だとは思うよ。
気にしないで、ソフィア。」
「はい! ありがとうございます、アカリ。」
「もう少し調べて何も無ければ、今日も打ち止めというところかしらね。」
「それじゃあ、ソフィア。
この方向に集中して、探知をしてみる?」
「はい、それは良い考えです・・・
昨夜、逃げてゆく不審者の後を追ったように、
ソフィアの集中した探知の魔法が、前方へと放たれてゆく。
「・・・っ!」
「ソフィア、どうしたの!?」
「まさか、悪霊かしら?」
やがて、明らかに表情を変えたソフィアに、
私も美園も慌てて尋ねる。
「いえ、その気配とは違って・・・むしろ別方向の存在かと思われますが、
確かめて良いでしょうか。」
「うん、もちろんだよ。」
「それじゃあ、行きましょう。」
首を傾げるソフィアを連れて、私達はまた歩き出した。
「・・・感じたのは、この気配ですね。
あの川の時とは違いますが、こちらも同じような場所でしょうか。」
「うん。小さいけれど、神様をお祀りするためのものだよ。」
「これは・・・お稲荷様と呼べばいいかしらね。
元をたどれば大きな神社もあるけれど、
こんな風に小規模に、時には個人の家で祀られることもあるものよ。」
道を歩いていて、ふとこうした場所に遭遇することも、珍しくはないだろう。
私達の前にあるのは、小さくとも確かにお社である。
「それで・・・アカリ、ミソノ。
この気配が急に移動するなんて、考えにくいですよね?」
「うん・・・? それはなかなか無いことだと思うけど。」
「ソフィアの感じ方が、私と同じかは分からないけれど、
このお稲荷様の気配は、移動したりしていないわよね?」
「はい・・・では、このお稲荷様と似ていた、
先程の公園で感じた気配は、なぜすぐに消えてしまったのでしょうか・・・」
「えっ・・・?」
「それは、どういうことかしら。」
ソフィアが不意に告げた言葉に、私と美園は目を点にしつつ、
それでも落ち着いたところでお祈りを捧げ、私達はこの場を後にした。
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