第15話 夜警
「それじゃあ、出発しようか。」
「はい、アカリ・・・!」
「・・・気のせいかしら、なんだか楽しそうに見えるのは。
本来の目的を忘れてないわよね。」
普段ならもうすぐ寝ようかという時間。美園の神社の前に集合し、
不審火を引き起こしているらしい、悪霊の気配を探しに向かう。
それはそうとして、この間まで異世界に召喚されていた影響もあってか、
ちょっとした冒険のような気持ちになってしまうのは、隠しきれないようだ。
「もちろん忘れてはいないけど、
それはそれ、これはこれってやつかな。」
「こちらの世界では、深夜でも出歩く人は少なくないと、
アカリに聞いていたのを、実際に見られるのですね。
どこかには眠らない街と呼ばれる場所もあるとか・・・」
「異世界で何の話を広めてるのよ、あんたは・・・」
「いや、ソフィアにしか話してないよ。二人だけの時にね。」
「はい。眠る前にそうした話を、たくさん聞かせてもらいましたね。
それほど時間は経っていないはずなのに、少し懐かしいです。」
「あんたらねえ・・・」
ソフィアが私に身を寄せてきたところで、
美園からちょっと冷えた視線が飛んでくる。
でも、私は見逃さない。
「そう言いつつ、美園もちょっと楽しんでるでしょ。」
「そ、そんなことないわよ・・・」
「・・・ミソノが目を逸らしました。
アカリ、よく分かりましたね。」
「これでも、幼馴染ではあるからね。」
「こんな時に人のことを分析しないでくれる・・・!?」
まあ、気を張りすぎるのも良くないというし、
これくらいの空気で、出発といこう。
「こちらに来てから、ここまで遅い時間に出歩くのは初めてですが、
道を照らす明かりや、まだ営業しているお店もあるのですね。」
「うん、大きな町なんかに行けば、もっと明るいだろうけど、
これでも、向こうと比べるとね。」
「それって、日が落ちればもう真っ暗ということ?」
「いや、行軍の時とかは、松明を用意して警備する人もいるし、
王都でも同じようなところがあったかな。
照明用の魔法も少し使われてたよ。」
「ただし、この世界の明かりに比べれば、効果の範囲は狭いですね。
それが及ばない場所は、やはり暗かったです。」
ソフィアが興味深そうに辺りを見回す中、
こちらの世界と向こうとの違いなどを話しながら、
夜が更けた町を歩いてゆく。
「・・・っ! アカリ、ミソノさん。
嫌な気配ではないのですが、少し先から二人ほど・・・
張り詰めたような雰囲気を感じます。」
やがて、辺りに探知の魔法を巡らせるソフィアが、
その存在を感じ取った。
「それって・・・!」
「うん。多分だけど、不審火について公的に調べている人達だね。
ソフィア、認識阻害を強めにかけられる?
すれ違っても、絶対に見つからないくらいに。」
「はい、アカリ・・・!」
念のため暗がりのほうに三人で集まり、
ソフィアが先程からかけている魔法を、さらに強化する。
しばらくして、辺りを警戒しているらしき二人が、
険しい表情で歩き去っていった。
「・・・今更ですが、私達と彼らの目的は同じなのでは?」
「ええ、それはそうなんだけど・・・」
「悪霊とか魔法とか、この国では公的に認められたものではないし、
法と照らし合わせるなら、勝手にやってるのは私達ってことになるよね。」
「難しいのですね・・・こちらの世界も。」
うん、ソフィアも向こうでは神殿に勤めていたわけだし、
その絡みで面倒事に直面したこともあるのは、少し聞いている。
「まあ、こっちもこっちで、悪霊や取り憑かれた人が何かした時、
どんな風に取り扱うか決めろと言われても困るからね。
明らかにまずそうな悪霊だけ祓うことに専念して、
あとは法律に任せるって考え方で、いいんじゃないかな。」
「はい・・・! それもそうですね。」
「一応、お祓いはうちの仕事でもあるからね。
この町で危ないことが起きるのは嫌だし、
私は無償のお手伝いみたいなものかしら。」
自分達の活動が何なのか、少しだけ自問自答したところで、
私達はまた歩き出した。
*****
「この辺りはだいぶ探ってみたけど、嫌な気配は無さそうかな。」
あらかじめ決めておいた区域を、一通り歩き回ってはみたけれど、
悪霊と思われる反応は、近くには感じられない。
「ええ、そろそろ明日に響きそうだから、
打ち止めにしようかしら。」
「二人は明日も学校があるのでしたね。
休息の時間は、確保したほうが良いかと思います。」
美園とソフィアもうなずいたところで、
私達は帰り道を歩き出した。
「不審火ということで、騒いでいる人も多いけれど、
この時間に限って言えば、静かなものよね。」
「うん・・・ちょっと遠いところで何か起きてても、
ここまでは届かないだろうからね。」
「広範囲に対応する魔法は・・・いえ、それでも限界はあるでしょうね。」
行く時と変わらず、静かな夜道を三人で歩いてゆく。
「待て・・・!」
「逃がすな・・・!」
その空気を破るように、鋭い声が聞こえてきたのは、
引き返し始めて間もなくのことだった。
「聞こえた?」
「ええ・・・! あっちよね。」
「うん! ソフィア、お願い・・・!」
「はい・・・!
声が聞こえた方向に向かって、ソフィアが魔法を発動する。
私達の周囲全体に探知を巡らせるのに比べて、
一つの方角を指定できるのなら、その範囲は大きく伸びる。
「いました・・・! 先程の二人らしきものと・・・
その先に、嫌な感じのする気配が一つ・・・!」
「行ってみようか。」
「分かったわ。」
あまり道に詳しいわけではないけれど、
ひとまず声が聞こえた方角に向かい、走り出す。
いや、ソフィアの認識阻害は解除したくないし、
美園をこんなところに置いていくわけにもいかないから、
出来る限りということにはなるけれど。
「・・・探知できる範囲から、気配が消えました・・・」
「はあ・・・はあ・・・
私も、これ以上走るのは、厳しいみたい。」
「うん、じゃあここで止まろうか。」
しばらく追いかけた後、
追跡の手段と、美園の体力に限界が来たので、私達は立ち止まる。
ソフィアも行軍や戦闘で、歩いたり走ったりは慣れているので、
息切れの順番は自然とこういうことになる。
それに、少し離れた場所で、
逃走と追跡を繰り広げていた人達も、結構な体力の持ち主なのだろう。
「すみません、アカリ・・・」
「気にしないで、ソフィア。
探知魔法のおかげで、嫌な気配が逃げた方角は分かったし、
初日から収穫があったんじゃないかな。」
「ええ、私も他人のことを言えた立場ではないけれど、
灯の言う通りだと思うわ。
そもそも、何も手掛かりの無い状態から、
ここまで情報を得られたことが凄いのよ。」
「ありがとうございます、アカリ、ミソノ・・・!」
「それじゃあ、今度こそ帰って休むとしようか。
また明日、頑張ろうね。」
「ええ。」
「はい・・・!」
ソフィアに笑顔が戻ったところで、
私達は初日の捜索を終えて、帰路についた。
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