第3章 宙に浮かぶ火

第14話 不審火騒ぎ

「灯、今日はソフィアのお弁当なの?」

「うん。学食とは半々くらいにしようと思ってるんだ。

 ソフィアが、作るのも食べるのも楽しめるようにね。」

午前中の授業が終わり、お昼休みを迎えたところで、

いつものように、美園と二人で昼食の時間を過ごす。


『私は自分の料理でも、食べることは楽しめますが・・・

 でも、ありがとうございます、アカリ。』

いや、学校にいる時は、ソフィアが私の中にいるから、

実質的には三人なのだけれど。



そうして、表向きは美園と向かい合って、

お昼を食べていると、周りの生徒達の話が聞こえてきた。


「ねえねえ、連続不審火の犯人、捕まったらしいよね。」

「うん。私の家から近いところでも起きてたから、

 心配だったし、本当に良かったよ。」


「犯人が要領を得ないことを言ってるとか、ニュースでやってたっけ?」

「よく分からないまま、そういうことしてたのかな。

 ちょっと怖いよね。」


最近のニュースや、人気の芸能人の話など、

日によって聞こえてくる会話はまちまちだけど、

今日のはここから近い地域での事件でもあるし、内容も軽いものではないので、

私達も、犯人が捕まったくらいのことは聞いている。


・・・悪霊に関わりはじめた身としては、

最後に話されていたことが、どうしても気になってしまうのだけど。


「確かに気がかりよね・・・でも、犯人が捕まったそうだし、

 これ以上何も起きないのなら、ひとまずは良かったという所かしら。

 まさか、捕まえてる所まで乗り込んで、

 悪霊の影響を確かめるわけにもいかないしね。」

『それは、アカリやミソノでは難しいのですか?』


「うーん・・・向こうの世界で言えば、王都の兵が怪しい人を捕まえたところに、

 平民が牢屋まで行って、調べさせてほしいって言うようなものかな。」

『なるほど。簡単ではなさそうですね。

 私も、神殿としてどうしても話を聞きたい人物が居た時に、

 聞き取りの人員に選ばれたのが、一度あったくらいでしょうか。』


「いや、私からすると、

 そういうところに入れる時点で、まず驚くのだけど。」

「ちなみに、私も召喚されてた時に、

 お城の中の案内で、遠くから見たことはあるよ。

 構造とか、ゲームで目にしたものに近いなあ・・・という感想だったね。」

「あんたもなの、灯・・・!?」

うん、異世界にいたこと自体が特殊すぎるから、美園はあきらめてほしい。



そうして、私の中のソフィアも交えて昼食の時間を過ごすうちに、

不審火のことは頭から少し薄れて行った。


次の日、その事件が再び発生し、

冤罪か模倣犯か・・・? と大きな騒ぎになるまでは。



*****



「これって、もう嫌な予感がしてない?」

学校が終わり、すぐに帰って・・・そうでなくても帰宅部ではあるけれど、

私の部屋に三人で集まる。ソフィアも今はこちらの服を着た姿だ。


「ええ、今の時点では確証は無いけれど、

 悪霊の可能性が高いと思うわ。」

「私はまだこの地に詳しくないですが・・・

 アカリもミソノもそう言うのなら、確かなのでしょうね。」


「それで、悪霊の影響だと仮定すると、

 最初に捕まった人と、次に事件を起こしている人、

 少なくとも二人が影響を受けたことになるよね。」

「ええ、推測にはなるけれど、

 この前の呪具に取り憑いていたような、本体がきっといるわ。」


『では、その本体を見つけ出すのが、

 今やるべきことでしょうか。』

「そうなんだけど・・・

 美園、事件の起きてる範囲って分かった?」

「ええ。今、地図を出すわね。」


そうして、美園が少し大きめの地図を広げ、

これまで不審火が起きた箇所に、次々と印を付けてゆく。


「・・・さすがに、探知魔法で調べるには無理がある距離だよね。

 ああ、ソフィア。この辺が前に行ったお店で、ここが駅だから・・・」

「これは・・・確かに、すぐに全体を調べ上げるのは難しそうです。」


「まあ、いざとなったら、

 私が注ぎ込めるだけの力を、ソフィアに渡せば・・・」

「アカリ・・・? 無理はしないようにと、

 私にもよく言っていますよね・・・?」

あっ、ソフィアの目が恐い。

この辺はお互い様な気もするけれど、実行に移すのはやめておこう。



「そうなると、まずは地道に調べるしか無いわよね。

 それで、灯。私達が行動するうえで、大きな問題があるのは分かる?」

「うん、最近は色々とやってるけど、

 私達は公的機関でも何でもない、ただの女子高生だってことだよね。」


「ええ、そうよ。

 さらに言えば、今回の事件はニュースにもなるくらいの出来事。

 それこそ、公的機関が動いているのは想像がつくわよね。」

「うん、美園が言いたいことは分かった。」


「あの、二人とも・・・?」

「ソフィア、私達がやろうとしていることを、向こうの世界に例えて言うとね・・・

 王都の兵が怪しい人とかを探してる時に、噂を耳にしただけの平民が、

 自分達で解決しようと動き出すようなものなんだ。」


「・・・捕まるのはこちらでは?」

「うん、そういうこと。

 だけど、こっちでは私達しか・・・とまで言えるかは分からないけど、

 取れる手段はあるよね。」


「・・・ああ、思い出しました。

 これはまだ向こうにいた時、アカリが教えてくれた、

 そう、すにーきんぐみっしょん!」

「その通り! 探知魔法と認識阻害を駆使して・・・」


「あんた達、そろそろ突っ込んでいいかしら?」

うん、美園の目が冷たくなってきたし、

地図を扇形に畳むような幻覚が見えたので、一度整理することにしよう。



「真面目な話、見つかればこちらも怪しまれるから、

 厳重に認識阻害をかけた上で、調べていくしかないよね。」

「そうよね・・・言い出しておいて、

 灯とソフィアの力に、頼りきりになりそうだけど。」


「気にしないでください、ミソノ。

 私達では分からないことが出てきたら、頼りにさせてもらいますから。」

「うん、ソフィアの言う通り。

 私は・・・犯人に鉢合わせたりしたら、物理担当かな。」


「アカリ、本当に無理はしないでくださいね・・・?」

「まあ、あんたが強いのは知ってるけど、そこはソフィアに同意するわ。」


「うん、ありがとう。私も気を付けるよ。

 それで、早速今夜からってことでいい?」

「ええ、そうしましょう。」

「分かりました、アカリ、ミソノ・・・!」

そうして私達は、深夜の捜索に向けて動き出した。

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