第9話 大捜索とその裏で

「皆さん、今日はこの付近で目撃された、

 危険な生物の捜索および捕獲にご協力いただき、ありがとうございます。」

川辺の草地で声を上げる、代表者らしき人。

その周囲には、近隣の住民だという人達が十数名。


「どうしてこうなった・・・」

そこにひっそりと加わる形で、私達三人もその場にいたのだった。


小さな社でのお参りを終えて、川沿いをまた歩き出してから、

程なくして出会ったこの人達。

どうやら、先日の出来事で目撃された蛇を、危険な存在として認識しているらしい。


傍から見れば、どうかと思う状況ではあるけれど、

私達からすれば、出来るだけ情報が欲しい状況だったので、

念話込みで三人で話し合い、この捜索に参加することに決めた。

元より、参加者名簿など作って、管理するような集まりでもなかったようだし・・・


「蛇の捜索は、手分けして行うみたいね。」

「それじゃあ、私達は変わらず固まっていようか。」

「はい。知らない人達に囲まれるよりも、このほうが落ち着きますし、

 それに・・・」

「うん。もし本当に力を持った存在なら、

 私達が先に見付けないとね。」

他の人達に聞こえないように、私達は言葉を交わした。



「最近も・・・とはいっても、あちらの世界にはなりますが、

 同じようなことはしましたよね、アカリ。」

貸し出された木の棒で、がさがさと草の中を掻き分けながら、ソフィアが口にする。

ちなみに、捕獲用の網も同じく渡されているけれど、

未経験者にこれだけ渡して、何とかなるものだろうか。


「うんうん、食べられる草とか、薬になる葉っぱを探すのは、

 向こうでもよくやったよね。」

「・・・少しばかり、私の価値観と違うことを聞いた気がするけど、

 そちらのほうでは、よくあることなのかしら?」


「うん。遠征に持っていけるのは保存食ばかりだから、

 新鮮なものは、現地調達しないとね。」

「近くに人里があれば、購入することも出来ますが、

 基本的には戦地にいたわけですし、それなりの人数で進軍していますからね。」


「・・・状況は少し分かったわ。私、従軍経験はさすがに無いのだけれど。」

「今のこの国であったら、すごく珍しいと思うよ。」

あくまでも、異世界に召喚されていた時の話だからね、美園・・・



「まあ、あの時期は特別としても、ソフィアも戦争が起きる前は、

 子供の頃に虫捕・・・お花を摘んだり、それを使って冠を編んだりしなかった?」

「私は神殿で育てられましたから、そうした遊びをした記憶は無いですね。」

「そ、そっか・・・」

それって、神殿がそういうことに厳しかったのか、

ソフィアだけが真面目な子だったのか、どちらか分からないけれど、

後者だったとしても、確かめようがない上に、地雷を踏んでしまいそうなので、

私は踏み込むことを止めた。


「私も家が神社だけど、今もよく一緒にいる誰かさんに、

 よく連れ出されてた記憶はあるわね。

 その子は花冠を作るより、虫捕りが好きで駆け回っていたかしら。」

「うっ・・・そういえば、そうだったかも・・・」


「・・・・・・アカリ。

 今度、私にその花冠というのを、教えてもらえますか?」

あっ、原因は分からなくもないけど、ソフィアの視線がちょっとだけ鋭い。


「うん、もちろんだよ。私は編むの、あんまり上手くないと思うけど。」

「それなら、私がアカリのを作ります。

 いえ、お揃いも良いですね・・・・・・」

・・・なんにせよ、ソフィアに気合が入っているようで、良いことだと思う。

あと、言ってから顔が赤くなってるの、別に隠さなくてもいいんだよ。


「なんだか暑そうだから、周りの様子も見ながら、飲み物買ってくるわね。」

美園がそう言い残して、小走りに去ってゆく。

うん、半分くらいは嘘じゃないだろうけど、これは逃げたな・・・



*****



「やっぱりこういう時は、スポーツドリンクだね。」

「あら、私はお茶よ。」


「それもいいだろうけど、塩分とか補給しておかないと、

 夏には少し早いとはいえ、熱中症が心配じゃない?」

「その点については、普段から飴を常備してるわ。

 家の仕事のほうで、長時間外に立つこともあるからね。」


「ミソノさんは準備がいいですね。

 私は・・・やっぱり甘いものを飲みたくなります。」

「うんうん、まずは好きなものでいいと思うよ。

 必要になったら、私のを分けるから。」

「はい、アカリのも飲んでみたいです!」

「・・・最近、自重もなく見せつけられてるのは、気のせいかしら?」


美園、気のせいという面があるのなら、『最近』という部分じゃないかな。

・・・と言ったら、怒られそうなのでやめておく。

さて、周りから見れば、私達はやや飽き始めているように見えるだろうか。

事実、この辺りの捜索は終わったので、そんな雰囲気が出てもおかしくはない。


「どうですか? 何か見つかりましたでしょうか。」

それを感じてか、最初に皆に声をかけていた、代表者らしき人がやってくる。


「いえ、小さい虫はよく見かけましたが、

 危なそうな動物は、見つかりませんでしたね。」

「そうでしたか・・・向こうでも成果はありませんでしたので、

 今日はここまでにしたいと思います。

 もしよろしければ、またご協力ください。」

そう言って、小さく礼をすると、

私達に貸し出していた木の棒や網を回収し、去っていった。




「・・・ふう、やっと終わったね。」

その気配が、遠くへと離れていったのを確認して、

私達はほっと息をつく。


「疲れましたね。あの人達が近くにいる時だけとはいえ、

 当たり障りのないことを話しながら、その裏で念話をするというのは。」

「まあ、さすがに想定外だったわよ。

 さっきの人達が、みんな悪霊の影響下にあっただなんて。」


「やっぱり、さっさと祓っちゃえば良かったんじゃない?」

「それじゃあ、解決にならないって言ったでしょ?

 本体は別にいるんだから、あの人達を祓っても、

 警戒を増した上で、別のターゲットが選ばれるだけよ。」


「それはそうなんだけど・・・やっぱり、本体を何とかできないかなあ。」

「アカリ、先程も念話で伝えましたが、

 あの川の、おそらくは深い部分に本体がある上、水で気配が散らされています。

 向こうにいた頃ならともかく、今の私達では・・・」

「世界を越えたら、水の精霊は呼び出せなくなったからなあ・・・」


さっきの人達が、軽い状態とはいえ憑かれていたのは、割と早い段階で分かった。

だけど、肝心の本体をすぐに祓う手段が無かったため、

少しばかり面倒な対応を取ることになってしまった。


パワーストーンを通じて、近い距離であれば念話が出来るようになっていたことに、

本当に助けられたと言うべきだろう。


「今日は元々調査のつもりだったから、

 明日には、本格的に祓うための準備をしてくるわよ。」

「うん、私達も出来ることが無いか、考えてみよう。」

「はい・・・! それに、先程も悪いことばかりではありませんでしたから。」


そうだ、ソフィアの言う通りだ。

私達は、ちゃんと出会うことが出来たのだから。



『この辺りは危険です。

 おそらくは、悪霊に取り憑かれた者達が、貴方様を狙っているのです。

 どうか、お離れになってください。』

『・・・! 美園の言葉が、届いた・・・?』

『あの方が、力を持った存在なのですね・・・!』


「美園、さっきは凄かったよ。

 悪霊の思惑は、あれで外すことが出来たんじゃないかな。」

「はい・・・! きっとその日、子供達を守ったのは・・・」

「と、当然よ。私は巫女なんだからね。」


黒い蛇の見た目をした、力を持った存在は、あの場に確かにいたのだ。

そして、去っていった方向からして、おそらくは・・・

それを悪霊の脅威に晒さずに済んだことだけでも、本当に良かったと言えるだろう。


「帰りに、またお祈りしようか?」

「一日二回って、この場合はどうなのかしら。」

「ご挨拶はしておきたい気持ちですが・・・」


私達は少し軽くなった気持ちで話しながら、帰り道を歩き出した。

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