幕間 ソフィアの女子高生体験

「ソフィア、この二日間色々ありすぎて、

 話せていなかったんだけど・・・」

「は、はい・・・」

二人きりの部屋。ソフィアが少し緊張した表情で、私の言葉を待つ。


「私、女子高生だったんだ・・・!」

「・・・!?」

目を見開くソフィア。そして沈黙が場を支配する。

この場に美園ツッコミ役はいないのだ。



「思い出しました。アカリの住む場所・・・

 今では、この国というべきでしょうけど、

 ほとんど全ての子供が、教育を受けているのでしたね。」

「うん。年齢とかで段階はいくつかあるけど、

 初めのほうは何か事情でもない限り、それこそ全員がね。

 ソフィアに話した時、驚かれたのを思い出すなあ。」


「はい。私は神殿に引き取られた身でしたので、

 学ぶことが出来る環境にありましたが、全員というのはとても・・・」

「うん。向こうとこちらでは、色々と違いすぎるからね。」


そもそも、国やその住人の考え方が異なるだろうし、

子供みんなに学校や、それに類するものを用意するといっても、

あちらでは、インフラとかお金の問題が出てきそうではある。


もちろん、国としての仕組みが無いだけで、

周りの大人や年上の子供達が教えていたり・・・というのはあるらしいけれど。



「しかし、アカリが学生というのは、確かに想像がつきません。

 いえ、そもそも戦いの場に呼んでしまったのは、

 私を含めたあの国なのですが・・・」

「まあまあ。向こうに召喚されてた間も、私の本体はここにいたんだけどね。

 それで、この二日は休みだったから、

 買い物とか悪霊祓いとか、自由に動けてたんだけど・・・」


「明日からは、学校なのですね。」

「うん。次の休みまでは、普通の女子高生に戻るよ。」


『普通・・・? 今まで喧嘩で一度も負けたことが無いとか、

 真面目にやればスポーツ万能、いや超人とか言われてるのは、

 普通の範疇に入るのかしら。』

「・・・アカリ、不思議です。

 ここにいないはずの、ミソノさんの声が聞こえるような・・・」

「うん、パワーストーンに遠隔通信の力なんて、付与してないんだけどなあ・・・」


一度、向こうの世界でも聞こえた気がするけど、

きっと気のせいだ、きっと・・・・・・



*****



「これが、アカリの通う学校の制服・・・!

 すごく新鮮です!」

「・・・スカートは似合わないとか、はっきり言ってもいいんだよ。」


「そ、そこまでは言っていません!

 このブレザーというのは、素敵だと思います。」

「あ、ありがとう。」

うん、ソフィアの優しさが心に染みるなあ。


「それじゃあ、ソフィア。」

「はい、アカリの中に戻ります。」

さすがに学校の中にまで連れて行くには、

手続きにしろ、実りょ・・・何らかの別の手段にせよ、簡単ではなさそうなので、

ソフィアの召喚を解き、私の中から学生気分を味わってもらう。


「おはよう、美園。」

「おはよう、灯。ソフィアさんもいるのよね?」


『はい、いますよ。おはようございます、ミソノさん。』

「っ・・・! これは、慣れないとびっくりするわね。

 おはようございます、ソフィアさん。」

美園と一緒に登校するのはいつものことだけど、

昨日完成させたパワーストーンで、ソフィアと美園の間にも、

念話が通じるようになったのは、大きな違いだろう。



『これが、アカリの住む国の歴史・・・こんなことが起きていたのですね。』

『ずっと昔の話ではあるけどね。今はこの国の歴史だけど、

 世界史の授業なら、ソフィアのところに近い文化も出てくるかな。

 さすがに魔法はないけど。』

授業中も、ソフィアが楽しそうにしているので、私も念話でそれに応える。

いつもは教師の話を、ただ聞いている気持ちになるけれど、

こうしていると、私にとっても良い効果があるようだ。


『うがあああ・・・! 分からない、分からない。

 やはり数学は、私の敵・・・!』

『アカリ。最初に出てきた公式というのを、

 ここに当てはめれば良いのでは・・・?』

『えっ・・・ごめん、ソフィア。もう少し詳しくお願いします・・・』

うん、どうして一緒に来た初日から、もう助けられているんだろうね、私は。



『これが、学食・・・! ど、どれにするのですか、アカリ。』

『あっ、もちろん召喚術で感覚共有しておくから、

 ソフィアが好きなのを選んでいいよ。』


『あ、ありがとうございます・・・!

 しかし、これは迷ってしまいますね・・・』

『じゃあ、日替わり定食にしようか。

 他のはメニューが変わらなければ、いつでも食べられるから。』

『はい・・・!』


「どんな会話になっているか、なんとなく想像できるのだけど・・・

 ちなみに私はお弁当よ。」

「じゃあ、ちょっと交換しようよ、美園。」

「ええ、構わないわよ。」

『・・・!!!』

今はソフィアの姿は見えないけれど、

幸せそうな表情をしているのが、目に浮かぶなあ・・・



*****



「お疲れ様でした、アカリ。」

「ありがとう。ソフィアも一日お疲れ様!」

そのまま午後の授業もなんとか終えて、

家に帰ったところで、ソフィアを召喚する。


日中はずっと、私の中にいたのだから、

実体でこの世界を感じてもらったほうが良いだろう。


「いえ、私は見ていただけですから。」

「ふふっ、ソフィアの視点だと、居眠りしててもバレないのがいいよね。」


「アカリ・・・? こちらでしか学べないことがあるのに、

 居眠りとは考えられないのですが。」

「あっ、ごめんごめん。ソフィアからすると、そうだよね。」


「もう・・・アカリは自分に合うか合わないか、

 もっと言えば、興味を持てるかどうかで、身の入り方が大きく変わりますよね。」

「うっ・・・確かに、向こうでもそうだったなあ。」

その頃、私の傍にずっと付いてくれていたのは、他ならぬソフィアなので、

当然のことながら、バレている。


この話題を続けると、お説教が終わらなそうだから・・・

というわけではないけれど、ソフィアに一つ聞いてみたいことがあった。


「ねえ、ソフィア。

 この制服を気にしてたと思うけど・・・着てみない?」

「えっ・・・! い、いいのですか?」


「もちろん、好きなだけ着ていいんだよ。」

「は、はい・・・! ありがとうございます。

 では、アカリ・・・少しだけ、後ろを向いていてください。」

いや、着るのを手伝ってもいいんだけど・・・とは思うけど、

野暮なことは言うまい。私は普段着に着替えて制服を渡し、

しばし待っていると、ソフィアの声が聞こえる。


「アカリ、どうでしょうか・・・?」

「・・・!!!」

振り返れば、すぐに目を奪われてしまう。

私のほうが少し背が高いから、ちょっぴり緩そうな部分はあるけれど、

大事なところはそうじゃなくて、何よりスカートがすごく似合ってる。


「か、可愛い・・・!」

「えっ・・・!」

思ったことをそのまま口にすると、

ソフィアの顔が、みるみる赤くなってゆく。


そのまま下を向いてしまったので、傍に寄って頭を撫でると、

ぽすりと体を預けてきた。


いつか、こういうお試しじゃなくて、

ソフィアも本当に高校に通えたらいいのにな・・・と、少し思ってしまう。

でも、私みたいに目を奪われる人がたくさん出そうだから、それはそれで心配かも。


こんなことを考えている間、照れながらも幸せそうにしているソフィアが、

一番良いと感じられるやり方を、見つけてみようか。

初めての女子高生を体験したソフィアを、そっと抱き寄せながら、

これからのことを思った。

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