第6話 身に纏うは・・・(中)
「
私が言葉と共に力を込めると、ソフィアが実体となり現れる。
「ありがとうございます、アカリ・・・体調に問題はありませんか?」
「大丈夫だよ。朝の時よりは、力も回復してるよね?」
「・・・はい、そのようです。」
今朝のこともあって、すぐにこちらの体調を心配されてしまったけれど。
「何よ、また灯に何かあったの?」
「あったというか、私が試しに長めの時間、
召喚を続けてたのが原因なんだけど・・・」
美園も尋ねてきたので、今朝の出来事を説明する。
「あんたねえ・・・そんな状態で、さっきまで買い物してたの?」
「あはは・・・危なそうなら、止めるつもりではあったけどね。
現に大丈夫だったし。」
「アカリは、無理をする時があるので心配です・・・」
「それ、人のこと言える?」
「うっ・・・」
向こうでの最後の戦いで、特大の無茶をしたのは他ならぬソフィアなので・・・
って、嫌なこと思い出させてないよね?
「でも、心配かけてごめんね。私も、もう少し注意するよ。」
「はい、アカリ・・・」
優しく頭を撫でると、私のほうへすっと身を寄せてきた。
「・・・で、長時間の召喚ってのは、
そんな風に、よろしくするためのものなのかしら?」
あっ、美園が引きつった笑顔でこちらを見ている。
「・・・そうとも言う。」
「は、はい・・・」
何も間違ってはいないので、
開き直ってもう少し、ソフィアを撫でることにした。
*****
「こ、これが、ハッシュドビーフ、
そして、スイーツというものですか・・・!」
帰りがけに買ってきた昼食に、ソフィアが目を輝かせている。
「灯・・・向こうの世界って、やっぱり食事はあれなの?」
「うん。素材本来の味や香り、そして歯ごたえが楽しめるよ。
こっちでは見たこともない動物のお肉も、わくわくしたね。」
「あっ・・・」
どうやら、美園は察してくれたようだ。
後者については、純粋に楽しみだった面もあるけれど。
「す、すごいです! とろとろに溶けたようで、それでいて風味のあるお肉に、
このスープ状のものも本当に美味しいです!」
うん、そこで一昨日までずっと暮らしていた、ソフィアの反応が全てだと思う。
「ふわあっ・・・!
これはもしや、アカリが教えてくれた、ホイップクリーム?
甘くて、ふわふわです・・・!」
「あんた、見方によっては割と残酷なことしてない・・・?」
「いや、基本的にはソフィアが聞きたいって言った時だけ、話すようにしてたよ?
あとは、向こうの牛乳みたいなものを手に入れた日には、
何とかなると思ったんだけどね・・・」
「ああ・・・」
うん、うろ覚えの作り方では、どうにもならないこともある。
そして、異世界にはこちらの知識を検索できる環境なんて無かったよ・・・
「そもそも、あんたが料理上手だなんて聞いたこともないけど。」
「失礼な。ベーコンエッグを焼くことくらいは出来るし、
レシピ通りに作れば、大きく外さない程度には完成するよ。」
「・・・微妙に不安なのは気のせいかしら。」
「大丈夫です、アカリ。
向こうの騎士団の中には、焼けば何とかなると思っている人達もいましたから。」
「フォローになっているような、なっていないような・・・?」
そうして、美園も加わった昼食の場を賑やかに終えて、
私達は今日一番の目的へと移る。
*****
「それじゃあ、ソフィア。
さっき買って来た服を試してみようか。」
「はい・・・!」
「そもそもだけど、召喚術って衣服もセットで付いてくるの?」
当然といえば当然の疑問を、美園が尋ねてくる。
「そうだね・・・私の召喚は、ソフィアの魂そのものを元にしてるから、
向こうの世界からしても、特殊な部類だとは思うけど・・・」
ソフィアと一度目を合わせ、うなずくのを確認してから、話を続けた。
「この神官服は、ソフィアが命を落とした時の姿、そのままなんだ。
それでなくても、ずっと身に付けていたものだから、
魂に焼き付いているのかもしれないね。」
「はい、私もそう思います。」
「あとは、私がソフィアの全裸を人前に晒すなんてありえないと、
心の奥で思っているから・・・というのもあるかもね。
もしあの場面でそうなったら、どんな空気になったか・・・」
「それは、想像したくないですね・・・」
「どんな状況かは詳しく知らないけれど、色々と台無しになる気はするわ。」
「そんなわけで、ソフィアと私の意思があれば、
召喚された状態での服の着替えも、出来るはずなんだよね。
じゃあ、早速やってみようか。」
「はい・・・・・・アカリ以外に肌を見せるのは、
余計に恥ずかしいですが・・・」
「さらっと聞き捨てならないことを言ってない・・・?」
美園から声が上がったけれど、ひとまずスルーして、
ソフィアに先程買った服へと着替えてもらう。
「ど、どうでしょうか、アカリ・・・」
「うん! 似合ってると思うよ。」
買い物の時にも、色々と考えてはいたけれど、
黒を基調としたふわりとした服が、ソフィアの金色の髪によく合う。
これで町を歩いたら、知らない人に声でもかけられないかと、心配になるくらい。
「少し無難といった感じもするけれど、これはこれで良いと思うわ。」
美園も横から、うなずいてくれた。
「ソフィア、その服は身体に馴染みそうかな?」
「はい、アカリと、ミソノさんが選んでくれた服ですから・・・!」
ソフィアの嬉しそうな顔を見て、本当に良かったという気持ちになった。
「それじゃあ、あと一つお願いしたいことがあるけど・・・
その後で、ソフィアにこの服で、外へ出てもらおうか。」
「はい、アカリ・・・!」
「もう一つというのが気になるけど・・・分かったわ。」
そうして暫くの時間を置いた後、
私達は三人並んで、改めて駅前まで歩くことにした。
「・・・! 何か、叫び声みたいなのが聞こえない?」
「はい、そちらから嫌な気配も感じます、アカリ・・・!」
「これって・・・・・・まさか、また悪霊が?」
そこでまた、悪霊祓いへ向かうことになるとは、
想像はしていなかったけれど・・・
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