第3話 始まりは嵐のように(下)

「くっ・・・! やるならやりなさい!

 灯の姿に消されるのなら、ぎりぎり認めてやるわ!」

・・・幼馴染がいきなり攻撃してきたので、それを封じたら、

何か定番のシチュエーション的なものを、見せられている件について。


「アカリ・・・私、命を奪うような素振りでも見せたでしょうか?」

「いや、そんなことは無いけど、

 美園は時々、思い込みが激しいからね・・・」

ソフィアが戸惑っているので、とりあえず事情を説明する。

今回が少しばかり刺激が強いだけで、行動パターンとしては分からなくもないのだ。

・・・それに慣れている私は、本当に良いのかという議論は別にして。


「全く、仕方ないなあ・・・」

「アカリ・・・?」

ため息をつきつつ、美園に歩み寄る。

私の力と繋がっている光の壁は、私自身を拒むことはない。



「えいっ!」

「痛っ・・・!」

いわゆるデコピンを、美園に決める。

幼馴染同士、やらかしは互いにいくらでもあるけれど、

そんな時の手打ちは、昔からこうだ。


「美園・・・私は悪霊に乗っ取られてるわけでもないし、

 そっちがいきなり攻撃しなければ、何もするつもりは無かったんだけど。」

「灯・・・本当に灯なの?

 何か別の存在になってるわけじゃなくて?」


「昨日と全く同じってわけじゃないけど、

 ちょっと長い話になるから、落ち着いて聞いてもらえるかな?

 無理そうなら、気持ちが鎮まるまでやるけど。」

「わ、分かったわよ!

 私が悪かったから、話を聞かせて・・・!」

ひゅんと指の素振りをしながら言ったら、どうやら分かってくれたようだ。

説明するのも簡単ではないけれど、まずは聞いてもらおう。



*****



「はあ・・・? 異世界に召喚されてた?

 どこのラノベの話を聞かされてるのよ、私は。」

「いや、そう言われても仕方ないとは思うけど・・・本当なんだよね。」

その類の物語で言えば、導入部分くらいの話をしたところで、

美園から返ってきたのは、ある意味予想通りの反応。


なお、ソフィアは私の肩から顔を出したまま、

『ラノベって何ですか・・・? あっ、続けてください。』

と、念話で尋ねて来た。うん、後で説明するね。


「ほら、このソフィアは異世界から連れてきたんだよ。

 向こうの神官服を着てるんだけど、こっちでは見ないような意匠でしょ?」

ともかく、説明しないことには始まらないので、

私が世界を渡っていた、一番の証を示す。


「いや、私には霊体・・・それも、凄く強力なのに見えるけど、

 異世界から来たって言われてもねえ・・・」

「うん、そういう反応になるかもとは思ってたけど、もう少し話を続けさせて。

 私は向こうの世界で、召喚士になったんだ。」


「召喚士・・・? ゲームの中でやたら火力高いのとか、

 雷落とすのとか、何でも斬るようなのとか呼び出すあれ?」

うん、ゲームの例えが偏ってる気がするけど、間違ってはいない。


・・・ソフィアには、何でも斬るタイプは説明していなかったから、

後で教える必要がありそうだ。こちらに向く視線が、それを物語っている。

向こうの戦いで、再現できそうなものを優先して話してたからなあ・・・


「まあ、そうだね。さすがにゲームのようにとはいかないけど、

 私が呼ばれた世界では、火や水や土の精霊と契約して、

 その繋がりをもとに、力を借りて使う職業だったよ。」

「ふうん・・・つまり、あんたにくっついてる霊体が、

 その契約した精霊ってこと?」


「ううん、違うよ・・・」

視線を合わせて、先へ続けても良いか確認する。

これから話そうとしているのは、ソフィアにとってあまりにも大きなことだから。


『もちろん、構いませんよ。アカリ。』

私の心にだけ声が届き、いつもの笑顔で、こくりとうなずいてくれた。



「ソフィアは向こうの世界の神官でね、

 私が召喚されていた一年くらいの間、ずっと隣にいてくれたんだよ。

 だけど、最後の戦いで、私を守って命を落としてしまった・・・」

「え・・・!」


「その時、私が召喚士の力を使って、ソフィアの魂を繋ぎとめたんだ。

 そうして、戦いをどうにか終わらせた後、

 一緒に帰ってきたのが、今朝のことなんだよ。」

「そんなことが・・・」


「さっき美園は、霊体だって言ってたけど、

 ここにいるのは、ソフィアの魂そのものなんだ。

 そして、この世界でも私が召喚士の力を使えば・・・」

もう一度、ソフィアと目を合わせて、

うなずき合ってから、私達の言葉を紡ぐ。


召喚サモン、ソフィア!」

そして、ソフィアの姿が実体を伴い、私の傍に現れた。



「これで分かってくれるかな。

 私が異世界に行って、召喚士の力を使えるようになって、

 ソフィアと一緒に、ここに帰ってきたこと。」

「ええ・・・ここまで見せられたら、信じるしかないわね。

 それに、私の中でも合点がいったわ。

 向こうにいたの、一年くらいって言ったわよね?」


「うん。あっ・・・!」

これはまずい。話す時間が無かったとはいえ、

まだソフィアに伝えられていないことに、美園が気付いてしまった。


「生気を吸われたような症状が、

 あんたに出てたのは、ちょうど一年前くらいよね。

 つまりは、その時に魂の一部か何かが、異世界に行ってたってこと?」

「そ、そういうことだね・・・」

全くその通りなのだけど、この話題を出すには、

タイミングがとてつもなく悪い。


「アカリ、どういうことですか・・・?」

振り向けば、ソフィアが顔を真っ青にして、声を震わせるのが見えた。



*****



「ごめんなさい、アカリ!

 私の召喚のせいで、大変な思いをさせてしまいました・・・!」

「そんなに謝らなくていいから。

 召喚をすると決めたのは、あの国の偉い人達で、

 ソフィアは優秀な神官として、術の使い手に選ばれただけでしょ?」


「でも、でもアカリが・・・!」

「いいんだよ。こっちの私に何も無かったとは言わないけど、

 それよりも、ソフィアと出会えたことのほうが、

 私にとってはずっと大事なんだから。」


「はい・・・はい・・・!

 ありがとうございます、アカリ。」

消えてしまいそうに縮こまり、頭を下げるソフィアを、

優しく撫でながら、なんとか落ち着かせる。


私が思っていることは、今の言葉が全てだから、

どうか重く受け止めすぎないでほしい。



「・・・で、私は何を見せられてるのかしら?」

「あ・・・・・・」

ようやくソフィアが落ち着いてきた頃、

引きつった笑みを浮かべながら、美園が声をかけてくる。


「これって、爆発しろとか言ったほうがいい場面かしら?」

「いや、私達みたいに、その気になれば自力で出来そうな身が言うと、

 洒落にならないからやめて?」


「爆発を伴う魔法・・・? 私がすぐに結界を・・・!」

「いや、例えの話だから、ソフィアも落ち着いてね?」

うん、知らないと真に受けてしまう例えは、気を付けなきゃいけないと思う。

ソフィアが立ち直ってくれたのは、良かったけれど。


「ミソノさん、でしたね。

 私の国の召喚で、あなたにもご迷惑をおかけしました。申し訳ありません。」

「確かに、あの時の灯は本当に心配だったわね。

 でも、当の本人が今の調子なら、私もこれ以上言うつもりは無いわ。

 それと・・・さっきは悪霊なんて言って、悪かったわね。」

二人がようやく、正面から言葉を交わすことが出来て、

今日やるべきことが、一つ片付いた気がした。

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