第469話 きっと。

「「「「「アンナさん御乱心っ!アンナさん御乱心っ!」」」」」


そんなアンナさんを止めるべく、ブラック・ローズの影の者達五名がアンナさんを捕獲しようとどこからともなく現れる。


ただ疑問であるのが、この部屋に五名もの影が一体今まで何処にいたのか問いたくなるのだが、彼女達はアンナさん捕獲に忙しい様である。


「ちょっ!?止めなさい貴女達っ!!」

「これは練習ではないっ!繰り返すっ!これは練習ではないっ!」

「パターンSっ!パターンSですっ!災害級魔獣と戦う事を想定して下さいっ!」

「このっ!誰が災害級魔獣ですかっ!言い直しなさいっ!子猫ちゃん級と言い直しなさいっ!」

「なに寝言を言っているのですかっ!?大人しくお縄に着いて下さいっ!」

「昨日私の楽しみにしていたプリンが誰かに食べられた恨みっ!今ここで晴らさせて貰いますからねっ!覚悟して下さいっ!」

「抜け駆けは禁止というブラック・ローズの鉄の掟を忘れたとは言わせませんっ!」

「成る程、いいでしょう。この際いい機会ですから、そこまで言うならば私がいかにフランお嬢様を愛しているか思い知らせてやる為にもここにいる全員でかかって………一人明らかに私怨が混じってましたよねっ!?」


そしてアンナさんは抗戦も虚しく捕縛され、影達に引き摺られて行く。


それはまるで、フランお嬢様が目覚めない不安を紛らわすかの様な雰囲気がうっすら漂っていた。


それはまるで、敢えて皆その事気付いていない雰囲気であった。





フランお嬢様が目覚めないまま五年が経った。


王国では急ピッチで建設されていた二十メートルものフランお嬢様像が完成間近である。


このフランお嬢様像なのだが、一つだけ気に入らない点がある。


それは慎ましやかである筈のフランお嬢様のお胸様がとても大きく作られていたのである。


コレは断固抗議したい所であるのだが、この抗議のせいでフランお嬢様像の建設が頓挫してしまう可能性が無いわけではない為言えずにズルズルと時間だけが過ぎて行き、|今日(こんにち)まで来てしまったという訳である。


「フランお嬢様像が完成した時はみんなでフランお嬢様像を見に王都へ旅行に行きましょうね。フランお嬢様」


それは、きっと幸せで、とても楽しい旅行となるだろう。


みんな笑顔で、笑い声が絶えず、でもたまに誰がフランお嬢様の隣りにいられるかで騒がしくなったりするだろう。


それはきっと、きっと………きっと幸せで楽しい旅行のはずだ。


きっと。


きっとだ。

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