第437話 視線を合わす事が出来ない
確かにわたくしの家族は貴族至上主義でありわたくしとは価値観が余りにも違い過ぎていた。
その事を気持ち悪いとすら思っていた。
しかし、わたくしに注がれていた愛情が本物であるという事に関しては疑いようもない事実なのだ。
住み慣れたドミナリア邸、そして見慣れた扉の向こうには朝食を食べる為に家族が集まっている。
その扉の向こう側へ向かう一歩が出ない。
そんな時、そっとアンナやウル、メイ、そして新しくわたくしの奴隷となったシェリー、ボーガン、アリアが寄り添ってくれる。
それだけでわたくしは一歩踏み出す勇気が湧いて来て、目の前の扉を開き中へと入って行く。
これはわたくしの家族を救う為、仕方のない事なのである。
戸惑う必要等無いのだ。
「し、失礼致しますわ………へ?」
家族を守る。
その事を胸に抱き中へと入ると、そこに朝食など無く、真剣な表情の家族の姿がそこにあった。
「おはようございます、フランさん。まずはいつもの席に座って頂けないかしら」
お母様は口元は扇子で隠し柔らかな声音でわたくしを部屋の中へと入るように言ってくるのだが、その眼もとは笑っておらず、過去の経験上から怒髪天の如く怒っているのを堪えている時のお母様そっくりであり、わたくしの第六感が今すぐこの場から逃げろと警告をけたたましく告げてくる。
「し、ししししししし、失礼致しますわ」
しかし、いくらわたくしの第六感が逃げろと警告を告げていたとしても、今この場で逃げた場合のお母様の怒り爆発具合を考えれば逃げずに大人しく従うというのが正解であるとわたくしは知っている。
「逃げ出してしまうかとも思ったのですけれども、少しは成長したという事かしら?フラン」
「わ、わたくしも、い、いい、いつまでも子供ではございませんわ。あれから八年も経っているのですもの。心身共に大人へと日々成長しておりましてよ。オホホホホホホホホホッ!」
余りの恐怖から、その恐怖心をごまかす為に思わず高笑いをしてしまった。
お母様の目を見るのが怖すぎて、視線を合わす事が出来ない。
因みに八年前はお母様の大切にしていた化粧水を全てぶちまけてしまったわたくしは怒髪天に怒るお母様が怖くて家出をした事があった。
当時のわたくしからすれば家出をするという事はたった一日程度であれ大冒険であったのだが、今思えば結局のところ複数人の護衛もいたため家出ごっこであったのだが。
そして、そんなこんなで恐怖で震える身体をなんとか動かしテーブルへ着くとお母様がその口を開く。
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