第438話 母は偉大であったのだ
「家族と縁を切ると考えてらっしゃるようで、フランさん」
その声は鋭いナイフの様にわたくしの胸へと突き刺さる。
そしてお父様を見ると『嘘だよな?私の可愛い可愛いフラン』とまるで捨てられた子犬の様な表情でわたくしを見つめて来ていた。
「わ、わたくしは────」
「言い訳等で誤魔化そうとしても無駄ですわ。全て執事であるセバスから聞いております」
お前がブルータスかっ!?と執事を睨みつけるのだが、先ほどのお母様の言葉に、まるで小骨が喉に刺さったかのような違和感を感じてしまうのだが、それが何なのかは分からない。
「わたくし達と家族の縁を切る、それも結構。話を聞くにわたくし達を守る為と言うではございませんか。しかしフランさんはなにか勘違いをしていらっしゃるようで、実の母ながら沸々と怒りが次から次へと込み上げて来て感情を抑制するのが大変ですのよ。今もフランさんの首根っこを捕まえてぼろ布を振り回すが如くフランさんを振り回してやりたいという欲求を抑えておりますの」
どうやらお母様がここまで、怒り心頭になっている原因はわたくしが家族の縁を切るという事だけではないようである。
では、一体なぜ?と疑問に思ったその時『バチンッ!』という音と共にお母様が扇子を閉じで叫ぶ。
「わたくしはフランさんにとっては守らなくてはならない弱者、言い換えれば自らの身を守る事さえできない様な老い衰えた老婆とでも思っている等、我が娘ながらこのわたくしへ喧嘩を売っているのですかっ!?」
「ひぃぃぃぃいいっ!!!滅相もございませんわっ!お母様っっ!!」
そして鬼と化したお母様はのしり、のしりとわたくしの方へ近づいてくる。
その光景は一生忘れないであろう、そう思えるくらいに圧倒的恐怖となってわたくしの記憶に刻まれる。
「全く、少しは家族を信頼しなさいな。今のフランさん程ではないにしろ、これでもお母さんは若い時は金糸の雷精霊と言われるくらいには魔術に長けておりますし、お父さんも炎槍の貴公子と言われていたのですから、支援くらいはできましてよ。娘を守ると大それたことが言えないのが悔しくもあるのですがそこは娘の成長として受け入れます。なんてたってお母さんとお父さんの娘ですもの。当然あなたの兄もわたくし達の息子として恥ずかしくない位には優秀ですわ。縁を切る前にわたくし達家族を一度信頼しても良いんじゃなくて?」
「お、お母様………っ!」
母親の愛情の大きさに思わず泣きそうになるのをぐっと堪える。
どの世界でも母は偉大であったのだ。
「フランさんは昔っからどんくさいというか詰が甘いというか。いつも『こんな娘では貴族の荒波に揉まれ喰い殺されるのでは?』と心配で心配で仕方なかったのですよ。そもそもです。奴隷商人であったジュレミを隷属し、更には奴隷も定期的に大量に仕入れ、チョコレートから始まり銃等の巨大事業を始め、定期的に家を空ける様な事をしていて気づかない方がおかしいのですわ。そもそも婚姻前の年頃の娘が度々どこかへ泊りに行っている事をわたくしが見て見ぬフリをしている時点で何故察する事が出来ないのか。フランさんはそもそも昔っから────」
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