第436話 閑話2──薔薇の赤色





「では、ここに居るすべての奴隷を買い取らせて頂きます」

「かしこまりました。全員で銀貨三枚で御座います」

「銀貨三枚………それは余りにも安過ぎませんか?貴方にも生活があるでしょう?」

「私は、こういう職業をしております為結婚は諦めております」


奴隷商人がそう言うと、私達を買い取ってくれると言う、まるで宝石の様に美しい女性はうなづきながら「それで?」と続きを促す。


その女性の首元にはチョーカーの様な奴隷紋が見える。


こんな美しい女性奴隷を買うには一体いくらかかのだろうと、漠然と思ってしまう。


「それは即ち子供も諦めているという事でもあります。親がこんな、声に出して言えない様な職業であるという事の苦しみは私が一番良く知っておりますので。だから、だからこそ、私の元に来た奴隷達はいわば私の子供同然でもあるのです。その子供の怪我や病が治ると言うので有れば高い金額設定にして売れ残りが出てしまうくらいなら安値で売り払いたいと思う親心で御座います」


そう奴隷商人が言った後「所詮は偽善者なんですけどね」と小さく呟いた声が聞こえてくる。


「貴方は偽善者などでは御座いませんっ!!私は貴方のお陰で今こうして幸せに暮らしているのですからっ!!」

「そっか………そっか。では、この子達をよろしくお願いします」


奴隷商人は空を仰ぎ、被っていたハンチング帽で顔を隠すと震える声でそう呟いた。


「はい。我らが主人、ローズ様の名に誓って」





「ふむ、赤色が見えない、と?」


黒い仮面を被った、大きく美しい金色のドリルを二本頭に装着した女性が訳有りの奴隷達を次々とその『訳有り』を治していき、ついに私の番となった。


既に治して貰った奴隷達は歓喜で泣き、私の後ろに控えている奴隷達は希望で表情が見る見る明るくなって行くのがわかる、私以外。


「………はい。ですが、多分治らないと思います」

「何故、そう思いますの?」

「私のコレは病気ではないからです」

「そうですわね、病気と言うにはそうですとは言えませんわね」


ですが、と仮面を被った女性は続ける。


「この世界に赤色を加えてみませんか?」

「…………………加えたいです」

「宜しいですわ。では、ここに並べたカードを色順に並べてみて下さいな」


そして私は仮面の女性に言われた事を素直にやり、眼の診察もされて行く。


「ふむ、ふむ、分かりましたわ。私では貴女の目を治す事は出来ませんわ」


やっぱr───


「しかし、それを補う物を作る事が出来ます。少し待って下さいな。結界魔術の応用で貴女の目に合わせて三原色がバランスよく見える様に調整したレンズを作り、そして眼鏡フレームを同じく結果魔術で作れば………本当結界魔術はチートですわねっと。ほら出来ましたわ。このサングラスをかけてみて下さいな」

「わ、分かりました………………っ!?」

「コレは外だとより鮮明に見えると思いますわよ。そう、例えば庭の芝生の美しい緑色ですとか、薔薇の赤色ですとか」


私はローズ様の言葉を聞き終える前に庭へ飛び出していた。


「凄い………凄い……凄い、凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄いっ………ううっ、コレが赤色………っ………綺麗………」


流れる涙を拭う事もせず、私は薔薇やその葉、床の芝生を眺め続けるのであった。

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