第391話 キス

そう言うと我はエルフ達を部屋から出るように促す。


「あ、そうそう。因みに我妻は蘇生魔術を扱えるぞ?」





「平和ですわねー」

「そうですね、フランお嬢様」


夏休みも終わり、ここ最近メインキャラクターによる半強制イベントなども無く平和に過ごしている。


今日も今日とても自室から満月を観賞していたりするくらいには穏やかな日常である。


コレを平和と言わずに何と言うのか。


我がブラックローズが運営している事業も、今年も武闘大会を大いに活用させて頂き、その宣伝効果も相まって売り上げは止まる事を知らず鰻登りの右肩上がりである。


コレならばわたくしが死亡フラグを回避しても卒業後一人で生きていける分には十分過ぎると言って良いほど十分過ぎるであろう。


あとは死亡フラグをへし折ってしまえば終わりである。


後何本残っているかという問題は考えたくないので考えない。


良いじゃないですか。


メインキャラクター達とも嘘であるかのようにわたくしとの関係は良好そのものですもの。


なるように成りますわ。


「へっくちっ!………誰かわたくしの噂をしているのかしら?」


そんな事ない事くらい分かっているのだが、そこはやはり元とはいえ日本人である故に古典的な事を反射条件的に言っているとアンナがポンチョをそっと肩へとかけてくれる。


「夏が終わり秋になったばかりとはいえ夜風は冷えます」

「ありがとう」


秋に自作した団子に満月、ススキが無いのが残念ではあるものの代わりに今日はアンナさんが側に控えてくれている。


「そういえばアンナは奴隷の育成も任せているのですけれども大変では無いかしら?」

「いえ、コレも全てフランお嬢様の為と思えば誉れで御座います」

「そう。でも頑張ってらっしゃるのでしょう?前々から考えていたのですけれども、奴隷の幹部の皆様には何か感謝の印をお送りしたいと思っているのですけれどもアンナは何が良いと思いますの?なんでも良いからおっしゃてくださらないかしら?」

「な、なんでも………?」

「ええ、わたくしができる範囲ですが」


するとアンナは急に顔を真っ赤にしてもじもじとし始める。


それは普段クールビューティーの仮面(直ぐ剥がれてしまう)アンナには珍しく、まるで誕生日プレゼントを聞かれた幼子を見ているようでとでも微笑ましい光景であり、思わず可愛いと思ってしまい抱き締めたくなるのだがそこはグッと堪える。


「で、では………き、キス………を」


「あら、そんな事で宜しいんですの?もし遠慮しているのでしたら構わず申して頂いても結構ですわよ?」

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