第390話 実に愚かな考え

「………………ッ」


そしてエルフは我が問いに対して一瞬怒りの表情をし、まるで鯉の様にパクパクと口を開閉するだけで言葉を発する事は無かった。


恐らく口を開けば我が妻に対して自分の感情を吐き出してしまいそうになっているのだが、必死に抑えているのであろう。


「成る程、お主が七賢者のパトロンであったという事か。折角育て上げた作品が、実は見下していた人間による儀式の生贄として用意された駒と気付き我に泣きついて来たと。愚か、実に愚かなッ!コレで納得いったわっ!何故元老院が見当たらないのかをなっ!」


そして我は立ち上がり、頭を垂れているエルフの老人のもとまで行くと耳元で囁く。


「お主、殺ったな?」


我の言葉にエルフの老人はビクリと肩を震わすのだが、次の瞬間には強い意思を宿した目で我を睨み返して来る。


「それの何が悪いっ!この国で一番偉いのはこの儂であるのだぞっ!?だというのに元老院の奴等はまるで自分達の方が偉いかの様な振る舞いでこの儂に接してくるどころか、説教までしてくる始末っ!エルフが人間や獣人共より優れているという真実を言っただけで何故儂を王位から引く様な内容の事を言われなければならぬのだっ!」


そしてこの老人は汚くも唾を飛ばしながら自らの思いの丈を叫ぶ。


その姿の実に醜い事か。


「フム、貴様は人間や獣人よりも優れていると申すか?」

「当たり前であろうっ!」

「では何故エルフは獣人よりも身体能力が低く、目や耳、鼻も獣人よりも劣っているのだ?人間は確かにエルフより魔力は低く獣人よりも身体能力は低いかも知れぬが獣人よりも魔力は高くエルフより身体能力は高いと言うのに、何故エルフより劣っていると思えるのだ?」

「そ、それは………エルフは神に選ばれし生き物であるからだっ!」


我の言葉に素早く返せていない時点で自らの考えが破綻しているというのに、その事すら気付かず神などと言う根拠も何もない事を、それがさも当然であるかの様にエルフの老人は声高らかに叫び。


「愚か。実に愚かな考えである」

「な、何だとっ!?」

「ならば今日この時より神に選ばれし生き物は竜である。よって、貴様らエルフを殲滅させて貰おうかっ!」

「そ、そんなのは暴論であるっ!!」

「そうだ、こんな考えは暴論であると分かっているではないか。しかし、そうだな。この考えが暴論であろうとなかろうと我が妻が実行せよと一言申せば我は実行する。夢々忘れぬ事だな」

「ぐ、ぬぬぬ………わ、分かりました」

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