第360話 聞いておりませんわ

「レオは黙っててくださいッ!!フラン様、ノア様に婚約破棄されたらわたくし達が優しく拾って慰めて、甘えに甘えさせて差し上げますわっ!!

「「ますわっ!!」」

(((そしてわたくし達抜きでは生きて行けないほどだらけさせて差し上げますわっ!!)))

「オイこら邪魔すんじゃねぇっ!!」


そしてメインキャラクター達は和気あいあいと何時もの様に絡み始める。


本当、毎度毎度仲がよろしい事で。


そんな事を思いながらわたくしはふと昔の事を思い出す。


アルビンとの出会いはわたくしが中等部二年のときである。


その時、中等部へ上がってきたアルビンはこのわたくし自慢の髪を見て開口一番「超合金のドリルを装着しているご令嬢がいるとは聞いてはいたがぼべふぁっ!!」という言葉を残して何故か左頬をさすりながら走り去って行ったのである。


何故左頬ほさすっていたのか、ともすれば泣いていた様にも見えたのだが、その理由は分かりませんがこのか弱きレディーを捕まえて、自慢の髪に向かってあの言い草である。


わたくしの第一印象はこの時から『クソガキ』として脳裏に焼き付くと共に、それから毎日わたくしへちょっかいをかけて来だした経緯は今思えば懐かしくもあるのだが、それは懐かしみを覚えてしまう程会っていなかっただけであり、いざ本人がまたもこうしてわたくしにちょっかいをかけて来ているのだからそんな懐かしさなど、彼のウザさの前では一瞬にして霞んでしまうと言うものである。


一年経てばさすがのアルビンも大人しくなるかと思っていたのだが、何故だか分からないのだが以前にもましてちょっかいをかけられる頻度が増してしまっている様に見受けられる。


大人になれよと言いたい。


しかしながら、賑やかなのも偶には悪くないと思うのであった。





桜も散り、そろそろ梅雨が始まろうかという様なジメジメとした風と、まだまだ肌寒い風が交互にわたくしの肌を撫でていく。


桜の木々は花の代わりにまだ薄い黄緑色した若葉と、既に青々とした葉を携えており、それはそれで季節を感じられる一つの景色としてわたくしの視界を楽しませてくれる。


そもそもこの桜そのものはソメイヨシノではなく、どちらかというと原種に近い山桜なのだろう。


桜が咲いていた時期には既に赤茶色な葉もつけていた。


「おいフラン、聞いているのか?」

「聞いておりませんわ」


そんな、前世の記憶ともリンクする光景を馬車の外から眺め、楽しみながらわたくしはドナドナと揺られながら目的地へと運ばれていく。

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