第356話 幸せそうに失神する


「スゲーな、彼女。実力だけで言えば冒険者ランク金以上なんじゃねぇのか?下手したら俺以上の実力も………」

「さ、さぁ………どうなんでしょう。わたくし分かりませんわ。それよりもそろそろオーダーしたメニューが届く頃ですし、楽しみですわね」


そんな従業員の姿を見てレオが何故かわたくしへ問うてくるため知らぬ存ぜぬで押し切り話題も頼んだメニューへと変える。


何で真っ先にわたくしへ問うてくるのか一度レオには聞き出した上でわたくしほど暴力には程遠く可憐で乙女でか弱い淑女は居ないという事をそのクルミ程の脳みそに叩き込んでやろうかしらと思うのであった。



最近帝都を賑やかし始めた某喫茶店、その従業員達が珍しく色めき立つ。


声や態度こそ出さないものの、皆一様に興奮している事は一目瞭然であろう。


何故ならば、先ほど来店されたお客様の中に見慣れた、そして見間違うはずのない金色の『ドリル』を二つ携えた令嬢がいる事に皆気付いたからである。


いつもは黒い仮面を、食事の時ですら目元のみの仮面で姿を隠しているあのローズ様がこうして自分たちが働いている喫茶店へと来店して下さっているのである。


興奮しない訳が無い。


「ど、どうしましょう………失礼かとは思いましたがローズ様のご尊顔を間近で拝見させて頂いたのだけれども、想像通り、いや、想像以上にお美しく、あぁ………わたし、もう幸せ過ぎて………ダメです………」

「ジュリーっ!?ジュリー!!………だめだ、幸せそうな顔で失神してるっ!!」

「おら、そこをどけお前ら。この冒険者ランク鉄のパーティー、狼の遠吠えもガガガガガガっ!?」

「全くもうっ!!こんな時にっ!!」

「いと尊きお方の店で、更にいと尊きお方がいるこの空間で、お前たちのようななんの利益にもならない者達をそのまま店内に入れる訳が無いでしょう。出て行って下さいね」

「「「ファーネ姉、ナイスですっ!!」」」


そして従業員達はてんやわんやと慌ただしくしているのだが、そんな事など知る由もないフランの手によってベルが鳴らされる。


そのベルの音を聞き従業員達は誰がオーダーを聞きに行くのかを一瞬の時間で、目で会話をしてきめる。


犠牲になったのはまだ奴隷となって日が浅い元村娘のニ-ナである。


本来であればローズ様へオーダーを取りに行くという行為はリーダークラスの者が行うのだが、そのリーダーは絶賛失神中である。


そしてその事を踏まえて『奴隷となって長い者ほどローズ様への忠誠度が高まり、失神してしまうのならば逆に奴隷として日が浅い者ならば大丈夫ではないのか?と、ベルが鳴らされて一秒にも満たない時間で判断されたのである。


そして、その結果───


「ただいま、もどりました………と、とても、お美しく、ありました………」

「ニ-ナっ!?ニ-ナぁぁぁぁぁぁあああああっ!!」


───また一人、幸せそうに失神するのであった。



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