第354話 極論を言えばわたくしはそう思う

そして、そうこうしている内に我がブラックローズのメンバー達が運営している喫茶店へと到着する。


「初めて来るが、帝都のどの店よりも最先端な気がするのが不思議だ。ぱっと見では喫茶店で間違いないのだがカウンターや机の位置、店員の制服や洗礼された態度、そして前の店舗をそのまま居ぬきして使用している為か、モダンな造りにも関わらずどこか目新しさすら感じとれてしまう装飾品の位置や店造り。この目新しさと古めかしさがおかしくない程度で調和されている空間は帝都広しと言えどこの店くらいであろうな」

「急にどうしたんですか、ノア様。風邪でもひいてらっしゃるのでしたら無理せず帰宅する事をお勧めいたしますわ。ええ、早急に」

 

そしてわたくしが裏の顔ローズとして経営している喫茶店へ一歩入るや否やノア様が無駄に長々と店内の感想を述べ始めた。


その変わり身に、瞳に『急にキャラクターが変わって気持ち悪いですわ』という思いを込めて、病気だから帰宅しなさいと提案してみる。


「あのな、自分で言うのもなんだがこれでも皇位継承権第二位なんだ」

「ええ、本当に自慢にしか聞こえませんし納得も出来ませんがそうですわね」

「ぐっ………ま、まあいい。とにかく、例え皇位継承権第二位と言えども兄上が亡くなるという万が一を備えて俺もそれなりに教育はされているのだが、その中には当然ながら民の動かし方という物がある。これは突き詰めれば心理的な部分になってくるためこの店の様に一見普通に見えて細かい部分まで計算されている物などみると興味はなくとも『成程な』と、どうしても感じてしまうんだよ。こういう風に人々の関心を集めているのかと、ね」

「成程、どのようにしたら庶民と言う奴隷に自分の鎖を自慢させるように持ってこさせるのか、という事を日々学んでおりますのね」


わたくしはノア様の話を聞き納得すると共に、前世で知った奴隷の鎖自慢という話を思い出す。


あの話はつまるところ現代の社会人は会社の奴隷となってやしないか?という内容であったと思う。


そして会社を国として置き換えた場合、庶民とは、言い換えれば国の奴隷である───と、極論を言えばわたくしはそう思う。


そして国はどうやって奴隷に鎖自慢、この場合は愛国心を抱かせるかを考えるものである。


突き詰めてしまえば会社であろうと何であろうと、人が集まればかならず見えない奴隷と言う鎖は確かにそこにあるのだろう。


そして庶民はその見えざる鎖の事など考えようとも思わない。

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