第288話 閑話──幸福であった──
因みに名の知れた薬師達は新鮮な人肉を手に入れる為戦争や内戦付近に死体回収人を雇っているのだが、当然それらは薬師界隈でも相応の権力を持たなければ、翌日には暗黙のルールを破ったとして縄張りを邪魔された薬師によって漢方薬の原料とされてしまっているであろう。
しかし、そんな薬師の世界のおかげで私は最後に人様の役に立って死ねるのだからある意味で幸福であったと言えよう。
当然のことながら死体回収、そして人攫いはこの帝国ではゾンビやグールの発生阻止の為ご法度である。
その為帝国の息、またギルドの息がかかっているダンジョンで死んだ冒険者達の様に一纏めに灰にされてしまう為、それよりかはマシな最後であったと言えよう。
もちろん世界や内戦もご法度に変わりないのだが何百とある死体から一体盗むだけである為容易に盗んで来れる。
「ケホッ……うぅ」
私の右手は最早肉が溶けて骨が見え始め、ウジも湧き、壊死の部分は肘に迄達している為咳をするだけでもその振動が伝わり鋭い痛みが私を襲って来る。
身体もなんだか風邪をひいたかのように熱く、咳も止まらない為に痛みもその都度私を襲って来る。
どうせ殺すのならばいっそ早いうちに殺して欲しいと思ってしまう。
結局のところ薬師として死体は欲しいが殺す程の度胸も無いのであろう。
そんなのだからこの薬師は頭一つ抜け出せないのだ───などと心のなかで悪態をついているのだが結局私も自殺出来ないので人の事を言えやしないのだが。
「早く死んで漢方薬にしてくれないかな………」
「何馬鹿なことを言っているのですか。人の肉が漢方薬になる筈がありません。そんなのは禁忌という思考がなんらかの御利益があるに違いないという錯覚して出来た迷信に過ぎません」
そんな、ただただ死を待つだけの私の前に黒い服の上に白いエプロンを施した(のちにメイド服と知る)女性が立ち、私の最後の希望は単なる迷信であると否定するも、それを反論する気力も湧かない。
そしてこの女性が何故ここにいるのかも、何故死に行く私に向けてそんな慈悲もない言葉をかけるのかも分からないし、考えるだけの力も無い。
しかし、私を捕まえた薬師が人攫いをしていることがバレたという事が、目の前の女性から見て取れる。
「では、あなた方に聞きます。奴隷でも良いから健康になりたいですか?」
件の女性はそんな事を、この部屋に押し込められた、私含めて三名の女性に聞いてくる。
「生きたい………生きたいに決まっているっ!こんな所で死にたくないっ!漢方薬など真っ平ゴメンですっ!人として生き、人として死にたいっ!!本当は漢方薬の材料として死にたくないっ!それでもっ、それでもこのまま腐って醜い死に方をするよりかはマシだからと自分を騙して産まれてきた意味を無理矢理紐付けていただけですっ!」
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