第287話 閑話──それでも、私は幸せだった──
幼馴染の何人かは早い子だと物心ついた頃には既に学園に通っている子がおり、十六となった今では10人いた同年代の幼馴染のうち六人が学園に通っている。
残り三人は私と同じ理由で、貧乏故に学園こそ通ってはいないものの既に許嫁が決まっており昨年成人になったと同時に嫁いで行った。
その者達を羨ましいと思った。
それでも、私は幸せだった。
将来なんて考える事などできようはずもない。
日々生きるだけで精一杯であった。
姉も二年前に嫁いで行った。
兄達も長男を残して一人、また一人と去って行った。
周りより少し遅れてやる我が家の年始のお祝いは家族と新しい家族総出で祝い、楽しくもあり寂しくも羨ましくもあった。
それでも、私は幸せだった。
そんなある日、私は古くなった納屋を解体した後の瓦礫を片付けている時、休憩しようと座り込み手で体重を支えようと地面に手をつこうとしたその時、利き手である右手に五寸釘が根本まで刺さってしまったのである。
初めこそ唾を付ければ治ると思い、医者は金がかかると放置していたのだが、その判断が悪かった。
私の右手は日に日に肥大して行き、遂には腐り始めたのである。
ここまで来れば医者ですらどうにも出来ない。
終わりの見えない後悔の念が私の胸の中で渦巻いて消えてくれない。
こうなっては腕を切り落とすしかないのだが、そうなっては麦藁で日銭を稼ぐことも出来なくなり奴隷行きである。
だと言うのに両親や長男は私を奴隷に落とそうとしなかった。
そして私の日銭稼ぎもこの家にとっては大切な収入源であったらしく見る見る痩せこけて行く両親や長男を目にして私は遂に耐えきれなくなり家族に何も言わずに家出をした。
私の家族は、私を売り飛ばす程無情にもなれず、家族を飢え死にさせてしまう程無情であった。
それが堪らなく嬉しく思い、涙が溢れて仕方がなかったのだが、私はこの大好きな家族を飢え死にさせるほど無情にはなれなかったみたいである。
「ケホッ、コホッ………うぅ、痛いよぉ………っ」
家を出て早半年も経った。
十一の冬の訪れを感じ始めていた時期から一人で過ごし、既に春も終わりに近づき、様々な命が力強く歩みを始めいる中で私は薬師に捕まり、その方の屋敷の奥で他の私の様な治る見込みの無い、死を待つ複数の者達と一緒くたに押し込められていた。
一応閉じ込められた場所は男女で分けられているみたいである。
薬師にとって人間の肉はその部位のよって様々な漢方薬の原料となるらしく、権力の無い駆け出しの薬師などは名の知れた薬師と違い新鮮な人肉などが手に入らない為私の様な弱った者達を捕まえて来ては漢方薬にする為に逃げない様に檻で閉じ込め餓死するのを待つのである。
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