第281話 言葉を失っているようですわね
そしてわたくしはお父様へ飼いたいペットを聞かれ素直に答えると、お兄様が『我慢の限界ですっ!』と言わんばかりに吹き出す。
「今度はドラゴンっ、我が妹ながら、ブハッ、笑い過ぎて腹が痛いではないかっ!妹よっ!」
「うーん、そうだな、フラン。申し訳ないのだがドラゴンは流石のお父さんも買ってやる事は出来ないんだ」
「きゅいきゅいー」
「「「………は?」」」
まぁ、否定から入りますわよね、流石に。
そして彼らに口でどう説明した所で首を縦に降るとは到底思えない。
ならば初めからツキヨミを見せてあげれば万事解決であると確信し、山葡萄の手提げ籠の中へ潜ませていたツキヨミを籠の外へ出るように指示を出す。
「この子竜に懐かれてしまいまして、あ、名前は既に決めておりますの。ツキヨミって言いますのよ?可愛いですわよね」
「「「……………………は?」」」
あらあら、皆様ツキヨミの可愛さに言葉を失っているようですわね。
「ふ、フラン………?」
そして未だツキヨミの可愛さに固まっている家族の中からお父様が意を決したような表情でわたくしの名前を呼ぶ。
「何ですか?お父様」
「その子は子竜で良いんだよな?」
「?……そうですわよ?お父様」
何を今更そんな事をお父様はわたくしに聞いて来るのでしょう。
ツキヨミを見れば、子竜である事など一目瞭然ではないか。
そしてこのツキヨミの可愛さもまた一目瞭然であろう。
「それはそうと、この子竜───」
「ツキヨミですわ」
「───そ、そのツキヨミなのだが、ど、どこで拾って来たのだ?……フランよ」
そしてお父様は顔にとんでもない量の汗をかきながらわたくしにツキヨミをどこで拾って来たのか聞いてくる。
確かに、過去何度も竜種の卵や子竜を盗み、その盗んだ人の居る周辺を炎の海へ変え、街一つ一晩で消えてしまうという話も聞きますのでお父様のその怯え方も分かりますし、実際それに近い、むしろ今回は街一つどころか国一つが危なかったのですけれども、それでもである。
ツキヨミを前にして可愛いと言う感情よりも恐怖の感情の方が優っている事にわたくしは納得行きませんわ、お父様。
ほら、ちゃんと見てくださいお父様っ!この、小さな両の手をめいっぱい開いてパンを掴み、もきゅもきゅとパンを頬張るこの愛らしい姿をっ!可愛いと言う感情が胸の中に溢れ出て来るではありませんかっ!
「拾ったなどと人聞きが悪いですわ、お父様。スサノオと言う黒竜からわたくしが親代わりに育てるように預かって来たのですわ。勿論、スサノオからツキヨミを預かった場所はスサノオとの約束により言えません」
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