第280話 あれから半刻程続いた

なんだかんだでお父様は愛娘には弱いとわたくしは思いますの。


ですがお陰でお父様から言質は頂きましたわ。


そう安堵しかけたその時である。


お母様が『バッ』という音を立てて扇子を広げると自身の口元を隠してわたくしを真っ直ぐに見つめて来るではないか。


今なら蛇に睨まれた蛙の演技が前世を含めた世界の誰よりも上手に出来ましてよ。


「それで、フランさんは何を飼いたいんですの?今飼っている二匹のペットだっていくら掛かっていると思っているのですか?あの時最後まで面倒を見ると言ったのは嘘でございましょうか?フランさん。そもそもフランさんは今ノア様の婚約者候補である事をお忘れではないのですか?フランの一挙一足一動一言それら全てが、ひいてはドミナリア家の評価としても見られるのですのよ。王族となるからには楽しい事や煌びやかな事ばかりでは御座いません。それは男(おのこ)を後継として産む事は勿論、他国の王女とのやり取りや国内の貴族の女性達を纏め上げ模範としても立ち振る舞い、時には旦那を影でサポートし───」

「すまんな、フラン。母さんはあれはあれでお前がノア様の婚約者候補に選ばれて嬉しいのである。口数の多さは嬉しさに比例していると思い流してやってくれ」

「えぇ、わかっておりますわ、お父様」


なんや感やでお母様がノア様との婚約を自分の事のように喜んでいる事は知っているのだが、その影響でただでさえ厳しいお母様がより一層厳しくなり、口も以前にも増して煩くなったと思う。


そして当然、裏を返せばわたくしの事が心配で仕方ないという事の裏返しなのは理解している為、お母様がお小言モードに入れば気がすむまで耐え忍ぶのみである。


ちなみにこの時に少しでも口答えをしようものならばお母様のお小言タイムが倍に伸びるので結局は耐え忍ぶ一択しかないのだが。


「フランさんっ!聞いているのですかっ!」

「聞いておりますわっお母様っ!」


そして、お母様の小言はあれから半刻程続いた後、ようやく終わった。


「それで、フランは何をペットにしたいのかね?」


そのタイミングを見計らいすかさずお父様が『小言はここでおしまい』という意味も込めて話題をわたくしのペットへと強引に戻してくれる。


ちなみにお母様の小言は、最後の方はここ最近お決まりの流れである帝国の歴史の授業と化していた為歴史のテストはいつでもござれと胸を張れましてよ。


「はい、お父様。わたくし、ドラゴンを飼いたいんですの」

「ブハッ!」

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