第277話 しかと理解出来る

その余りの痛みに思わず現実であると思いそうになるのを何とか思い留まる。


「ぐ、ぐぅぅぅぅううっ。いくら現実と見まごうばかりの幻のを見せた所で所詮は幻術であろう。腕が無くなった訳では無い。この様に手……あれ?腕が、無い?そんな馬鹿なっ!?貴様っ!何をしたっ!!返しやがれっ!俺の腕を何処にやったっ!?」

「何処って、そこに落ちているではありませんか」

「その眼を今すぐ止めろぉぉぉおおおおっ!!!劣等種如きがエルフである私を見下してんじゃねぇぇぇえええっ!!!」


劣等種が俺の腕は枯れ葉の上に転がっているではないかと言ってくる。


これを信じてしまえば最後、完璧な洗脳状態に陥ってしまう事を私は知っている。


その、あからさまに馬鹿にした様な誘導とこのエルフである私を見下した目線、余りにも不敬過ぎるその態度に耐えきれず私は柄にもなく吠えてしまう。


………あれ?、急に視界がボヤけ、闇がかかり、何も見えなく………まさか、本当に私の腕は……ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイッ死にたく無い死にたく無い死にたく無いっ!!!


ゾッとした。


この現象は劣等種を拷問し、血を失い過ぎた者が偶に口ずさむ言葉、正にそれでは無いか。


では、私の腕は本当に斬られているのでは無いか?


そう考え付く前に私は地面に転がった腕を拾おうとし、両の腕がない事を思い出す。


そう、これが幻術であれば実際には斬られていない為落ち葉が何かを掴める筈である。


それが掴めていないと言う事はどういう事なのか、否が応でも理解させられる。


幻術であると思っていた事は事実であったと。


斬られた両の肩から流れ落ちる血液も、狭くなっていく視界も、段々と肌寒く感じるのも、その全てが本物であると、理解させられる。


死にたく無い。


この現状が現実であると理解すればする程死にたく無いと思ってしまうのだが、両の方から血液と同時に練った魔力も同時に流れ出し、【キュア】の魔術でこの際両の腕は諦めて斬られた箇所の傷口を塞ぐ事すら出来ない。


片腕でも魔術を扱える者はいる為両の腕を斬り落とされたとしても魔術は扱えれるのではないかと、何の根拠もなく思っていた。


しかし、今なら解る。


しかと理解出来る。


魔術の行使には掌が重要であると。


あぁ、まだ私には魔術について未知なる事がこの世界には沢山あるのだと、今この状況で知り得た。


劣等種と見下し、自身の無知を知り得ず、大海の広さを感じながら死ぬ。


正に私が今まで馬鹿にして来た死に方では無いか。

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