第276話 我ながらつくづく甘い

「抜かせ劣等種の小娘が。冥土の土産に大海を知って死ね。風魔術段位七【ストーム】」


そして私は劣等種の娘に私が放てる最大威力の魔術を放ってやる。


辺りは激しい鎌鼬と水の弾丸の嵐で吹き荒れ、木々が薙ぎ倒されて行く。


この魔術を受けて無事でいられた者は、この魔術の存在を知るエルフですら未だ居ない程の威力である。


知識の無い娘がどうなってしまうのかなど、考えなくとも分かるというものである。


身体の四肢は吹き飛び、臓器はぶち撒け、その獣人種にしては美しい顔も最早誰かわからない程原型を留めていない事が容易に想像出来る。


しかし劣等種の娘も最後に世界を知れて幸せであろう。


劣等種如きに段位七の魔術を使うまでも無いにも関わらず、使って上げたのである。


私の優しさが伺えるというものだ。


我ながらつくづく甘い。


「で、それで終わりですか?では、次は私が攻撃させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「…………へ?」


何故劣等種である獣人種の娘が今、私の目の前に無傷で、服すら傷付かず立っているのか、そして言うに事欠いて反撃しても良いかなどと見下した目で見てくるのか、その答えを理解する前に私の右腕がいきなり切り飛ばされていた。


「は?………ぐぎゃぁいぃ………っ!」


地面に落ち、斬られた勢いそのままに枯れ葉の上を転がる私の右腕の映像が私の脳に入って来る。それと同時に、今まで感じたことのない激しい痛みと熱さが私の肩部分を襲い、その痛みで泣き叫び転げ回りそうになるのを寸前の所で押し留める。


私とした事が、そもそも良く良く考えてみればこの光景が幻術であると分かる事であろう。


リアル過ぎる幻術は脳が騙され、実際に痛みすら感じ、極めた幻術は死ぬ事すらあるという。


そもそも私の魔術【ストーム】はどんな強者であろうと、その衣服すら無傷で防ぐ事など不可能な技である。


「見事な幻術であった。しかし、貴様のその衣服が余りにも綺麗過ぎる所がまだまだ未熟であったと言えよう。おそらくは深傷を負った事を欺く為に会えて無傷の幻術をかけたのであろうが───」

「長い。殺し合いで蘊蓄を語る馬鹿がどこにいますか。其方が攻撃しないのならば次も私が攻撃します」

「貴様ぁっ、言わせておけばっガッ、ァァァアアアッ!?」


そして劣等種である獣人の娘は私を、まるで虫であるかの様に見下しながらエルフである私の話を不敬にも遮り、馬鹿であると罵った上で、更に左腕を切り落とす幻術をかけて来る。

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