第269話 当たり前である

そもそも、わたくし的には最早目の前の黒竜は喋る野良犬野良猫に懐かれた様な感覚なのである。


言うなれば野竜である。


いくら人の姿に、それも超絶美青年へと化ける事ができようが、目の前で今にも泣き出しそうな顔で『そんな名前は嫌だ』という表情をされた所でわたくしのこの残念ドラゴンの評価は変わらない。


なんならこのドラゴンはなんだかんだでマザコンを拗らせているとも思っている。


「何故そんな拾ってきた犬猫へ付ける様な名前なのであるっ!?私はもっと良い名前が良いっ!」

「何を贅沢な事を申しているのですか。ある意味で、貴方に名前をつけるという重荷を背負って行くと言っておりますのに口を開けば文句ですか?それが嫌だと申すのでしたら貴方の母親の言う様にそれに似合うだけの伝説を作ってらっしゃいなさいな。何も成していないと言うのにカッコイイ名前が良いなどと、貴方の母親の前でも胸を張って言えますか?」

「は、母上の前で言えるかと言われれば、返答に困るではないか………」


そしてわたくしが母親の前でも言えるかと言うと目の前の美青年はモジモジとしだす。


全く、どう育てればこの様な者に育つというのか、親の顔が見てみたいとはこの事か。


気持ち悪くて仕方がないですわね。


「きゅいーっ。きゅいーっ」

「んんーっ、そうでちゅねー。カッコイイ名前が良いですわよねー。ごめんなさいね、でもポチやタマもそれはそれで可愛いとも思いますが、カッコ良くはないですものね」

「きゅいきゅいー」

「あら、そんなにわたくしに撫でられるのが気持ち良いのですの?良いですわよ、いっぱい撫でてあげましてよ」


そんな事を思っているとマザコン美青年の子供であるチビドラゴンがわたくしの胸へ飛び込んで来たのでそのまま抱き抱えて撫でてあげると気持ち良さそうに目を細める。


あぁ、なんと可愛いのでしょう。


「私と態度が違う事ないか?」

「気のせいですわ」

「そ、そうか」

「そうですわ」


当たり前である。


人によって態度を変える等、このわたくしがする訳がないですわ。


しかし、名前が無いとこのチビドラゴンの事を呼びづらい………ではなくて、この青年を何と呼べば良いか分からないと言うのも、確かにある為仮の名前、いわゆるニックネーム的な奴を付けると言うのはアリなのかもしれないと思ってしまう。


「はぁ、分かりましたわ。それでは次の名前が決まるまでの仮の名前を付けて差し上げますわよ」

「おぉ、私はそれでも一向にかまわぬぞっ!!」

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