第268話 良い迷惑


って、ちょっとまって頂きたい。今聞き流すにはとんでもなくヤバイ事をこの黒竜は口にしなかったか?


「あのー、黒竜さん───」

「我が名はバハムート二世であるぞ、妻よ」

「ば、バハッ…………バハムートね、えぇ。覚えましたわ」


バハムートとは巨大な魚ではないのか?いや、ゲームとかでは黒竜として描かれる事も多いですし、まぁ、そういう事なのでしょう。


「正しくはバハムートが父、ヘイロンを母を両親に持ち、父の名を受け継いでおる。そして忘れもせぬ、今より約五千年前両親は世界の秩序を維持する為にやらねば成らぬ役割があるからと私を産んで約五百年程で育児を放棄したのであるぞっ!今でも忘れぬっ!「貴方はもう一人で生きていける。これからは一人で生きて行くのです」という母の言葉をっ!父は最後まで母に食い下がったようであるが母には勝てぬ様で………せめて名前くらいつけてくれても良かろうっ!?しかし母上は私が何度言っても、父上が何度名前を授けたいと言っても『名前は神聖なものです。貴方が何かを成し遂げたその時、自然と名前が授けられているでしょう。それが王族の、ひいては伝説となると者の定めです。私達が勝手に名前をつけてしまえば世界の秩序が乱れる可能性もありますし、貴方の存在自体が危ういものとなります』と言って聞かなんだっ!だから私は父上の名前を借りて名乗っておるのだっ!」


あー………なんだろう?この、残念な生き物を見ている様な感覚は。


わたくしは母親であるヘイロンに労いの言葉をかけてやりたくなる。


五百年も親離れ出来ない子供の世話をするのはわたくしの想像を絶する大変さであっただろう。


しかも父親も父親で、子供には甘々で美味しい所ばかり取って行き結局は母親が悪者という構図が容易に想像出来てしまう。


「だから私は自分の子供にはそんな思いをさせたくないと心に決めたのであるっ!」

「はぁ、そうですか」

「分かってくれるかっ!妻よっ!」


分からねぇよという言葉を何とか飲み込むのだが、次の瞬間バハムート二世は『良い事を思い付いた』という表情をする。


「そうであるっ!妻よっ!私と我が子に名前をつけてはくれぬかっ!?」


「ポチとタマ」

「やはりこう、壮大な名前が良いなっ!………ん?今何か申したか?」

「ポチとタマ、と申しました。一応ポチかタマか選ばして差し上げますわ」


いきなり名前を考えてくれと言われても、良い迷惑である。


名前のレパートリーも投げやりになっても致し方ないであろう。


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