第266話 本当に良かった


「息を吹き返しなさいっ!!そうでないと回復魔術が使えませんわっ!!」


わたくしは骸と化した小さなドラゴンの心臓に当たる部分に指を二本、両手分で合計四本を使い胸を一定のリズムを刻みながら刺激を与えていく。

その間肋骨が折れたような感触がわたくしの指へダイレクトに伝わって来るが無視して続ける。

そして、十秒程胸を刺激した後、気道を確保し、わたくしの吐く息が漏れない様に爬虫類特有の長い口を両の手で抑えながら人工呼吸をし、それが終わると低威力の雷魔術で刺激を二度程与えて最初の工程へと戻り、それを繰り返していく。


もしかしたら、わたくしはこの小さなドラゴンと自分の未来を重ねているのかもしれない。



どれ程の時間、蘇生術をしただろうか。

もう無理かと諦めかけたその時、それは突然訪れた。


「ケプッ!クエェー………ッ」

「良く戻って来ましたっ!!聖魔術【再生(キュア)】!!」


小さなドラゴンは口から血を吐いた後、苦しげに、か細く、注意しなければ聞こえない程、それでも、自分は生きていると知らしめるように鳴き声を上げる。

その鳴き声を聞いた瞬間、わたくしは回復魔術を施して一気にチビドラゴンの体力と怪我を癒してあげる。


そして、目に見えて死から脱却し、元気にわたくしの周りを飛び回り出すチビドラゴンを見てわたくしは安堵のため息を吐く。

一か八かではあったものの蘇生できて、本当に良かった。


「我が子よっ!!」

「きゅいぃいいっ!!」


そして、黒い長髪を靡かせながらやって来るとチビドラゴンを抱き抱える美形の男性が現れ、急に抱きつかれたチビドラゴンはとても苦しそうな鳴き声を上げるもののどこか嬉しさを感じ取れる鳴き声を上げるのであった。





「この度は大変感謝する、小さき者よ」

「キュイキュイっ」


今わたくしへ感謝の言葉をチビドラゴンと一緒に告げる美形の男性はこのチビドラゴンの親だそうである。


そこでわたくしは疑問に持ち、最初に相対した時は確かに雌であったにもかかわらず、何故人型となった今は男性の姿をしているのか聞いてみると『我々はそもそも性別を持たぬし、産もうと思えば子供も一人で産める。しかし、やはりドラゴンも生物であるが故に子供を授かるには女性の身体でないとダメみたいなのだ。それがあの時私が女性であったと理由なのだが、今私は貴女のつがいとなる事を決めた。であるならば女性である貴女に合わせて男性の身体へ変えるのは至極真っ当であると思うのだが?』と、まるでそれが当たり前の常識であるかの如く返された。

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