第264話 リーシャの笑顔の方が見たい
良いでしょう、良いでしょう、子猫ちゃん達。その胃袋をこれでもかってくらい掴んであげましてよ。
「っ!?………っ!、っ!お、おじょっ、お嬢っ、………っ!」
そして、アンナ達のハニートーストを見たリーシャが、まるでゲーム機のショーウィンドウを前にした子供のような表情をわたくしに向けて来る。
あぁ、いけません。いけませんわっわたくしっ!リーシャのこの表情にゾクゾクしちゃうなんて、もう少しいじめてやりたいなどと、もう少しこの表情を堪能したいだなんて邪な事を思うだなんてっ!
「ほら、リーシャもこの食パンを焼いて来なさいな。蜂蜜とバターは竈の近くのテーブルに置いておりますわ」
「あっ、ありがとうございますっ!ありがとうございますっ!って、わわっ!?このパン柔らか過ぎませんっ!?お嬢様っ!このパンっ、凄く柔らかいですっ!!」
「当然ですわ。そして、そのパンでハニートーストを作り、アイスクリームを乗せ、トッピングで自分好みに味付けするんですもの。美味しくないわけが御座いませんわよ。ほら、早く作っておいでなさい」
「はっ、はいっ!!フランお嬢様っ!!」
しかし、やはりわたくしはリーシャの笑顔の方が見たいと、そう思うのであった。
◆
「お休みなさいませ、お母様、お父様、兄上」
「はいお休みなさい」
「ああ」
「お休み、フラン」
今現在、日は沈み夜ご飯を食べ終え、身体もお風呂で清め後は寝るだけである。
この世界には当然ながら電気をエネルギーとして利用していなければ電球なる物も無い訳で、基本的にはロウソクの灯りのみである為就寝は前世と比べてかなり早い。
それでも我が家の家族は皆平気して遅く寝る方であるのだが、遅くとも二十二時には既に全員眠っている。
その分朝も必然的に早いのだが、この朝特有の澄み切った空気はいつ深呼吸をしても美味しく感じられる。
そんな我が家族へ就寝の挨拶をしてわたくしは割り当てられているわたくしの部屋へと入り、そして窓から抜け出し外へと飛び出す。
というのも定期的に開くようにしているスキル、マップにて赤色の点に光る何かが現れたからである。
距離的には二十キロと離れてはいるもののわたくしの命に関わって来る為、わたくしへ仇なす存在は即座に対応するように心がけている。
「ふ、フランお嬢様………」
今回連れて来たメイが信じられないといった表情と声音で、ある方向から目を逸らす事をせずにわたくしへ声をかけて来る。
「えぇ、どうやらアレみたいね」
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