第263話 店員さんの気分である
此処で喚いたところでどうにもならない上にメイド長であるリーシャの首が物理的にも飛ぶ可能性が出てきてしまう為である。
しかし、皆様本当に良い肉体をしておりますわね。
前世のわたくし並みに腹筋が割れてましてよ。
………言うだけならタダですしね、少しくらい見栄を張っても良いではございませんか。
「うぅ、フランお嬢様ぁーっ、美味しすぎますぅーっ!チョコレートソースは当然の如く、このアイスクリームと言う氷菓子が今まで食べた事ない程美味しいですぅーっ!」
そんな、美しい肉体美を堪能しているとリーシャが涙を流しながら感動し、わたくしにアイスクリームの感想を言ってくる。
そうでしょう、そうでしょうとも。
この世界ではそもそも氷菓子そのものが超高級菓子である事に加えて、それ故に氷菓子そのものを改良して行くだけの歴史も無ければそういう事ができる財力を持つ者が少ない。
その為に他の料理と比べて圧倒的に種類が少なく、かき氷擬きかせいぜいフルーツか果汁を魔術で凍らした物くらいである。
この、氷を使ったかき氷擬きが夏に高いのは冷蔵設備が無いこの世界では当たり前であるとして、フルーツやジュースを凍らしただけの氷菓子となるとその額はとんでもない額となってしまう。
その理由としてフルーツやジュースを凍らす魔術師へ渡す代金分が、単価のほぼ全てを占めるからである。
それだけ、氷を作る事が出来る者が少ないという事でもある。
だからこそ貴族達は高いくせにそこまで美味しくない氷菓子より一般的な菓子を好み、そして氷菓子を作る機会も減り、と負のスパイラルに陥ってしまっている。
「フランお嬢様、アイスクリームとトッピングは苺ソースとラズベリーソースでお願い致しますっ!」
「私はアイスクリームのトッピングはチョコレートソースでお願い致しますっ!」
「私は練乳とラズベリーソースでっ!」
「わ、私は、その、チョコレートソースとママレードで……お願いしますっ!!」
そしてリーシャが幸せ絶頂というような表情でアイスクリームを食しているその時、アンナ、メイ、ウル、シャルロッテさんが釜で焼き上げた少し厚めの食パンに蜂蜜とバターを染み込ませたハニートーストを持って各々アイスクリームと好きなトッピングを申して来る。
「分かりましたわ」
気分はさながら移動販売のハニートースト店、その店員さんの気分である。
そしてシャルロッテさんが『ほ、本当にわたくしも頂いて良いのでしょうか?』という気持ちと『食べたいっ!』という気持ちが綯交ぜになった表情で、『自分が選んだ、最高に美味しいトッピング』をわたくしへ言うその姿は堪らなく可愛く思えてしまう。
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