第256話 郷土料理の代表格


逆に牛乳を飲む文化が無かった日本人は、牛乳を飲むとお腹をくだす人がいるのであるが。


そんな事を思っていると、ついでに前世あれやこれやの事も思い出し、少しセンチメンタルになってしまう。


だが、目の前に盛られていく魚の切り身や、これから出来るであろうあら汁に酢飯の事を考えればそんなセンチメンタルなど吹き飛んでしまうというものである。


しかし、しかしである。


この完璧と言える布陣であるのだが、一つだけ不安な事がある。


それは、お米を入手してからまだ日が浅い上に製造方法すら分からない為当たり前であるのだが、酢飯用の米酢が無いのである。


代わりにリンゴ酢を持って来てはいるのだが、どの様な味に変化するのか未知数である。


逆に砂糖を入れる必要も無いと思うので米酢で作る酢飯よりかは、微々たる差ではあるもののヘルシーと言えばヘルシーである。


そして、そうこうしているうちにご飯が炊けたみたいなので、恐る恐るリンゴ酢で酢飯を作って行く。


すると辺りにはフルーツの香りとお酢独特の香り、そして炊けたご飯の香りが漂い、思わずわたくしのお腹が可愛らしくひと鳴きしてしまう程には意外とリンゴ酢はリンゴ酢でありなのであろう。


堪らず出来立てのシャリを一口味見ついでに食してみると懐かしい味が口いっぱいに広がって行く。


味はシャリなのだが鼻から抜ける香りは仄かにリンゴの香りがする。


そして香るはあら汁の、魚介と味噌の香りも辺りに漂い出しノア様やレオ、シャルロッテさんにミシェル様やリリアナ様達も、待ち遠しいというのが手に取るように分かるほど、早く食べてみたいという感情が、皆一様にその表情に現れていた。


そんな、飢えた獣の如き視線を浴びながらわたくしは人数分の丼に一人前のシャリを入れて行く。


お寿司の握り方など分からない為、失敗を防ぐ為にも今回は海鮮丼である。


そして丼によそったシャリの上へ、黒鯛、へ鯛、キビレ鯛、真鯛、ベラ、と載せて行く。


「出来ましたわっ!!」


そして今、全ての作業の調理工程が終わり、ビーチに昔から備え付けられている木造の屋根付きテーブルへ並べられているのは魚の切り身、海鮮丼、あら汁である。


あぁ、文字通り夢にまでみた食べ物、郷土料理の代表格が、今!わたくしの目の前にっ!


「なぁ、フラン………」


そんな食べたくて、食べたくて仕方なかった料理を前にレオがどこか不安気な表情でわたくしへ話しかけて来る。


「何ですのレオ。なんか不安そうな表情をしておりますが」

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