第247話 テンションが地の底まで下がって行く
◆
「準備はよろしくて?忘れ物はしておりませんか?フランさん」
夏休み開始から今日で三日目。
宿題も全て終わらしたわたくしは今や無敵モードと言っても過言ではないであろう。
「はい、お母様。準備は万端でしてよ」
「フランがこんなに楽しそうなのは珍しいね」
「それだけ、わたくしが成長したという事ですわ。お兄様」
「それでは行こうか」
お母様よ、なぜわたくしにだけ忘れ物の有無を聞き、お兄様には聞かないのか是非、教えて頂きたい。
そんなわたくしの格好は白いロングのワンピースに鍔の広い麦わら帽子、そしてアケビの蔦で出来た手提げ籠と山葡萄の蔦で出来た手提げ籠を手に持ち、更に釣り竿を入れた袋を肩に斜めがけしている。
ちなみに手提げ籠の中身はスコップ───いや、これはシャベルなのか?オランダ語と英語で意味は同じらしいのだが、どっちでも良いですわ。って事で園芸用コテと着替え、包丁にまな板に醤油、お酢にうるち米、等々入れている。
そして、今からわたくし達家族が行く避暑地もといリゾート地、それは海なのであるっ!
すなわち、海と言えば魚っ!そして海の魚と言えばお造りっ!───いや、お刺身なのか?両方切り身という意味では同じはず………えぇーいっ!どっちでも良いですわっ!とにかくっ!大事なのは生魚を食すチャンスという事で御座いますわっ!あとテングサが手に入れば寒天がっ!!夢が広がりますわねっ!!
そんな期待溢れるわたくしを乗せた馬車が静かに走り出す。
そして三日後、ついにわたくし達家族は海に来ていた。
『せっかく海に来たんだから海に行こうぜっ!』という謎会話を思い出し、そしてその謎会話をしてしまう気持ちが分かるくらいにはわたくしのテンションは爆上がりである。
そしてこの爆上がりしたテンションがわたくしを油断させていたのであろう。
「あっ!?、お待ち下さいましっ!!」
急に吹いた海からの突風によりわたくしの麦わら帽子が無駄に広い鍔で風を受け止めて飛んで行ってしまったではないか。
「全く、普段は完璧かつ人間離れした頭脳と戦闘能力に忘れてしまいそうになるのだが、昔からこんな所はおっちょこちょいなんだから目が離せないんだよ。ほら、もう飛ばすんじゃないぞ」
「っ!?」
そして飛んで行ったわたくしの麦わら帽子を拾って下さった人を見てわたくしは言葉を失ってしまう程の驚きと共に一気にテンションが地の底まで下がって行く。
そしてその方はわたくしに麦藁帽子をスポット被せるとそのまま麦藁帽子ごとグリグリと頭を撫でてくるではないか。
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