第246話 当たり前だ

誰かがわたくしの幸せな時間を奪おうとしているみたいなので未だ寝るという意思と共に頑として布団から出ない意思を告げる。


当たり前だ。


今は学生生活のうち一番楽しみなイベントであり、このフランとしての人生で最も安全と言えるイベントでもある夏休み中なのである。


普段通りに起きる意味が分からない。


それに昨夜は夏休みの宿題を徹夜して一気に進めた為余り寝ていないというのも布団から出れない要因となっているのだが、そんなわたくしの態度を見たメイド長から深い溜息と共に残念な娘を見る視線が布団越しからチクチクと伝わって来る。


「お嬢様………はぁ………仕方ありませんわね。お母様を呼んできま───」

「おはよございます」

「はい、おはよございます」


このメイド長は最近わたくしを恐れなくなったと思うのだが、その分わたくしに厳しくなってきたとも思う。


セバス同様に良い傾向ではあるとは思うもののこっちが出ればあっちが引っ込むといった感じである。


むしろセバスの場合はわたくしに慣れてきたというよりかは死を覚悟しただけの様な気もするが、考えたって仕方ない事であろう。


それにしてもメイド長であるリーシャよ、お母様に告げ口するのはわたくしどうかと思いますの。


ああ見えて………いや、見たまんまお母様は教育には五月蝿いんですのよ。


その意味をお分かりですか?あなた。


そもそもお母様に告げ口という事は当然お母様と会う貴女にもリスクを伴うということを理解しておりますの?


わたくしの所為で貴女に何かあった場合、その原因を作ってしまったわたくしの気持ちも慮って頂きたいものである。


普通に悲しくてよ。


等と思うものの結局の所お母様が怖いから起きるという理由が、起きる理由の七割を占めるのだが、一応嘘ではない為問題ない。


「んん〜〜〜〜っ!!」


そしてわたくしは伸びを一つして頭を覚醒させると普段通りにわたくしの身支度をメイド達にさせる。


それにしても、今現在前世で言うところの初夏であるのだが、日本の様なジメっとした暑さでは無くカラッとした暑さである為、初夏であるというのに意外と快適に過ごせている。


まぁ、にしてもやはり30度前後になると暑いものは暑い為氷の冷気を利用したクーラー擬きには感謝しかない。


ちなみにクーラーとは言った物の正体は単なる穴の空いた入れ物と、それを設置する為の器具といった原始的な物なのだが、用途はクーラーと同じであるのであれは誰が何と言おうとクーラーである。

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