第245話 俺が諦めるとでも思うなよ

ノア様との婚約という、神のクソ野郎も最早なりふり構っていられないという事が分かっただけでも大きな収穫とも言えよう。


お父様曰く、まだ確実にノア様との婚約が決まった訳では無いみたいなのだが、皇族であるノア様は貴族であるわたくし以上に婚約云々の覚悟はしているであろう。


その事を考えると万が一ノア様自身がわたくしとの婚約を断るという希望的観測は捨てるべきである。


しかし、わたくしは例え転んでもタダでは起きません事をゆめゆめお忘れ無く。


必ずや一矢報いて見せましょう。





なんだかフランが朝から戦地に向かう兵士の如くオーラを纏っており、此方を意識している様に見えるのは俺の気のせいであろうか。


まさかフランとの婚約の話がフランの父親との間で密に交わされている事が何処からか漏れたとでも言うのか?


その考えを俺は頭を振って霧散させる。


フランとの婚約の件をフランの父親を個室に呼び、そこで話した事については箝口令を敷いた筈である。


「なぁフラン、怒っているのか?」

「怒ってなどおりませんわ、開口一番失礼な殿方ですわね。将来ノア様とご婚約されるかもしれない方が可愛そうですわ」


しかし悩んでも仕方ない為フランに問いかけてみると、これ、絶対フランは知ってる奴であるし俺とフランとの婚約話を何故かフランが知っているという事が分かった。


何故だ?


あの場には父上、俺、そしてフランの父親しかいなかった筈である。



………まさかフランの父親が箝口令の意味である他人という解釈の違いで家族は他人では無いと話してしまっている等という事は───いや、フランの父親は厳格を着て歩く様な人物である。


それこそあり得ないとその考えを一蹴する。


しかしながらあのフランである。


きっと父親の僅かな変化に気付いてそこから針の穴に糸を通す様な推理で導き出したのであろう。


流石フラン、その慧眼には恐れ入る。


あの日からフランに追いつこうと自身を高めれば高めていく程、未だフランが居る高み、その高さに驚くばかりなのだが、それに気付けば気付く程、以前の俺ではどれ程凄い事か分からなかった事が分かり始める度に、フランに近づいていると体感出来る。


まぁ、その度にフランと俺との差を否が応でも思い知らされるのだが。


「だからと言って俺が諦めるとでも思うなよ」


そして俺は自分に言い聞かせる様につぶやくのであった。





「お嬢様、起きて下さいましっ!お嬢様っ!!朝食の時間ですよっ!」

「んー、あと二十四時間だけ寝かして下さい……むにゃむにゃ」


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