第134話 売られた喧嘩
その女性を救いたいと思って何が悪い。
「今フランが一人で何かをその小さな背中で背負っている事は理解してる。 しかし、だからと言ってそれが何なのか答えなくても良い。 そのかわり、俺を頼ってくれても───」
「結構ですわ」
しかし俺の言葉はフランの、強い声音で言葉で遮られてしまう。
そのフランの表情は決意に満ちており、その瞳は意志の強さを宿していた。
何故そうまでして断るのか、何故フランはそこまでしなくてはいけないのか。
それはまるで───
「一体どうしたんだフラン。 ここ最近のお前はなんか生き急いでいる感じがして、俺はお前の事が心配でたまらないんだよ。 少しくらいお前の手助けをする事ですら俺は許されないと言うのか?」
「これはわたくしに売られた喧嘩であってその喧嘩をわたくしが買ったのですわ。 他人の手助けなどわたくしのプライドが許しませんわ。 それにノア様はこの国の第二王子であるお方。 ノア様の身に何かあった時は勿論の事その行動、その発言それらすべてがあらゆる場所、あらゆる人々を巻き込んでしまいます。 わたくしは関係ない人々をわたくしの単なる我儘で巻き込むことをわたくし自身が許しません。 ノア様のお気持ちは嬉しいのですけれども今回はその気持ちだけお受けいたしますわ。 わたくしの為に言って下さった言葉、とても嬉しかったですわ」
そしてフランは言った。
これは売られた喧嘩であると。
やはりフランは今何かと戦っているのだ。
そしてそれこそがフランが俺やレオ、シャルロッテを避けている理由であり、側に奴隷を置く理由でもあると俺は考え付く。
そしてそれは言い換えるとフランの奴隷はその全てを知っているという事でもあろう。
でなければ給金も支払っている単なるメイドを側に仕えさせた方が、メイド達を無駄にする必要も無い上に側仕えとしての専門的な技術もあるのである。
そこをわざわざ給金が発生しない上に専門的な技術の無い奴隷にする必要が無い。
その為貴族の中にはかなりキツく命の保証は無い事柄を奴隷にやらせている事が多いのが実情である。
しかしフランはそうしない。
奴隷にメイドの真似事をさせるという行為は、それはひとえにフランの優しさの表れでもあるのかもしれないが、それだけでないという事は分からない程俺も馬鹿ではない。
だったら何故高等部にあがってからいきなり側仕え、それも奴隷を侍るのか。
それはそうする必要があったからに他ならない。
おそらくフランは高等部に上がった頃に何者かによって何かしらの喧嘩を、敵意を向けられ、それは他人に言える様な事ではなく、他人に、それこそ家族にすらバレてはならず、そして命に関わる様な事である、と俺は考える。
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