第129話 思うはずもない

 そもそも、そもそもである。


 これはヒロインに起こるはずのノア様イベントではないのか?


 それを今回何故ヒロインではなくてわたくしがイベント回収をしているのか。


 そう考えている間に逃げれば良いのだが、ノア様に見つめられてるわたくしはまるで蛇に睨まれたカエルの如き動けないでいる。


 その余りに綺麗な瞳に吸い込まれてしまいそうで………。



「今フランが一人で何かをその小さな背中で背負っている事は理解してる。 しかし、だからと言ってそれが何なのか答えなくても良い。 そのかわり、俺を頼ってくれても───」

「結構ですわ」


 何を言ってくるかと思えば言うに事欠得いてわたくしの背負っている物を理解もせず、理解しようともせず頼っても良いなどと目の前の男は真剣な表情で言ってくる為思わず反射的に断ってしまった。


 言ってから事の重大さ、何も考えず反射的にわたくしの運命を握っているとも言えるメインキャラクターであるノア様に対して剣呑な態度で返事をしてしまった事を反省するのだが断った事に関しては悪いとも思っていない。


 思うはずもない。


 むしろ手が出なかっただけありがたく思って欲しいものだ。


 なんならあの状況で手を出さなかったわたくしを褒めてあげたいくらいである。


 そしてわたくしの感情は怒りと侮蔑、そして『お前が言うな』という思考で一杯になるのだが、いくら死亡フラグ製造会社筆頭エースであるノア様であろうとも現状何も知らない訳で、そんな人相手に怒っても仕方のない事であるしみっともないと自分を落ち着かせる。


「一体どうしたんだフラン。 ここ最近のお前はなんか生き急いでいる感じがして、俺はお前の事が心配でたまらないんだよ。 少しくらいお前の手助けをする事ですら俺は許されないと言うのか?」

「これはわたくしに売られた喧嘩であってその喧嘩をわたくしが買ったのですわ。他人の手助けなどわたくしのプライドが許しませんわ。 それにノア様はこの国の第二王子であるお方。 ノア様の身に何かあった時は勿論の事その行動、その発言それらすべてがあらゆる場所、あらゆる人々を巻き込んでしまいます。 わたくしは関係ない人々をわたくしの単なる我儘で巻き込むことをわたくし自身が許しません。 ノア様のお気持ちは嬉しいのですけれども今回はその気持ちだけお受けいたしますわ。 わたくしの為に言って下さった言葉、とても嬉しかったですわ」


 そう、結局のところこれはわたくしと神との喧嘩であり、神から売られた喧嘩をわたくしが買い取ったに過ぎないのである。


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