第98話 あり得ない
「目は覚めましたか?」
「………は、はい。 本当に夢ではなかったのですね……」
「言ったでしょう? ローズ様が貴女も、娘さんも救うと」
狼の耳を持つ女性メイドのその言葉を聞きハッとする。
「む、娘はっ!? 娘は今どこに居るのですかっ!?」
「落ち着きなさい。 貴女の、アナスタシオの娘であるアイリスは今我がブラックローズが経営するチョコレート専門店でお手伝いとして簡単な雑用を手伝ってもらっています。あぁ、勿論だからといって只働きはさせておりませんのでご安心を。一時間働く毎に大銅貨五枚を差し上げておりますので」
「え、チョコレート専門店で働いて……一時間に大銅貨五枚………大銅貨五枚っ!?」
始めは娘があの有名なチョコレート専門店で働いている事にビックリしたのだが、それよりもその給金に驚きを隠せない。
大銅貨五枚など成人農夫が一日中で稼ぐ平均的な額より少し少ない程度の大金では無いか。
しかもそれを娘は一時間毎に頂いている。
そう思うと嫌な汗が滝のように流れ始めてくる。
「そ、そそそそっ、そんなんに頂いて宜しいのでしょうかっ!? お恥ずかしながら私の稼ぎが少ない為に娘は学校へ行けず文字も書けないですし計算も出来ないのですが………っ!」
「文字や計算はこれから覚えてもらうとして、むしろ給金に関してローズ様は『少な過ぎかしら?』と仰っていましたし、我々は初任給として月々金貨で二十五枚、正確にはそこから社会保険料なる物で金貨二枚引かれて二十三枚を固定給としてもらっております。そしてその金額をアナスタシオもこれから頂くのですからそれから比べたら少ないですし一日三時間までと決めておりますので長時間働いてまだまだ幼い娘さんの負担になるような事もございません」
一体どこから突っ込めば良いのか分からなくなってしまう程聞きたい事がローズ様の先輩奴隷であるウルさんの言葉の中には余りにも沢山あり過ぎる。
月々金貨二枚もピンハネされるとしてもまだ手元に金貨二十三枚も頂けるなど、ウルさんを信じていない訳では無いのだが本当かどうか疑いそうになる。
そもそもピンハネする金額を教える時点であり得ない……そう、あり得ない。
であれば社会保険料というのは一体何なのか気になって来る。
「それと、とあるルールを破るとローズ様はかなり怒りますので、今から言うルールは絶対に覚えておいて下さい」
「な、何でしょうっ!?」
そもそも奴隷に給金を、それもこれほどまでに高額な給金を与えるなど聞いた事も無いし未だに嘘なのでは無いかなどと思ってしまうのも仕方のない事であろう。
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