第72話 ミイラ取りがミイラになってしまった
このお見合いが終われば適当な理由を付けて断るつもりであった。
しかしどうだ。
蓋を開けてみれば俺はものの見事にお見合い相手であるフランさんに惚れて、ここ王国まで帰って来ているではないか。
これではミイラ取りがミイラになってしまった様なものである。
「どうにかしてフランさんだけでも王国へ避難させる方法は無いものか……」
その方法は幾らでもある。
しかしどれも最善では無いという部分でここ数日堂々巡りで一向に先に進まず仕事に身が入らない日々が続いていた。
その最大の原因が我が王国は近い内に帝国へ宣戦布告をする為である。
今現在はその下準備をしている段階ではあるものの確実にその日は近づいている事は間違いない。
特に、以前帝国の差し金と見られる者により前王国騎士団が殺害された影響で戦争へのカウントダウンが一気に進んでしまった事は間違いだろう。
その為打開策を考える時間もそれを遂行する時間も無いという事も相まって想像以上に焦っている自分がいる。
そもそもこの時期に帝国の公爵令嬢と婚約が決まったなどバレようものならば間違いなく工作員の容疑をかけられ、良くて拷問の後生涯牢屋生活である。
悪い場合は拷問の後に処刑されて終わりである。
「どうしたものか………」
「団長、どうしたんですか? ため息なんて吐いて。 帝国から帰って来てから
思わず先の見えない悩みにため息を吐いてしまったみたいである。
そんな俺を俺の秘書でもあり副団長でもあるヒルデガルド・レストレンジはすこし前屈みになりながら俺の表情を覗き込み垂れた金色の髪をかきあげる。
その時一瞬だけ太陽光を反射する眼鏡の奥には不安そうな表情が見て取れた。
前団長が暗殺されて王国一鉄壁かつ安全であると言う事が覆りかねないこの大事な時に部下を不安にさせるなど、何をやっているんだ俺は。
「大丈夫だ、なんでもない」
「しかし……」
まぁ、大丈夫だと言って納得してくれる程簡単ではないか……。
なんでもないと言った所で余計にヒルデガルドの美しい表情は不安そうになる。
こういう場合はほんの少しだけでも不安を吐露し悩みを聞いて貰うのが手っ取り早い上に相手も納得するであろう。
それに、男性の俺が考えるよりも同じ女性の意見を聞くのも有意義である、と俺は思う。
「そういえばヒルデガルドは美人だよな」
「な、びっ、美人だなんてそんな………」
いきなり美人だと言うのは流石に不躾すぎたのかヒルデガルドは仕切りに髪の毛先を弄り始め、そわそわしだす。
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