第70話 反抗期とやらを見せて差し上げましてよ



「フランさん、準備は宜しくて?」


 しかし時間というのは残酷でわたくし一人の為に止まってくれたりなどするはずも無く流れ、そしてやって来るのである。


「準備はできておりませんわ、お母様。 一日学園で過ごしておりますし汗もかいているでしょう?わたくしまだ汗も流しておりませんの」


 準備はできているかと聞かれれば出来ていないと答えるのが出来る女というものである。


 簡単にイエスというのでは無くて焦らす事が鉄則でしてよ。


「あら、準備出来ていますね。 では行きましてよ、フランさん。 本日予約した店はお風呂も御座いますのでそちらで汗を流して同行させてるメイド達にメイクや着付けをさせますので何ら問題はないですわ。 大船に乗ったつもりで行きますわよっ!」


 何という、無駄に用意周到なっ!


 まるで初めからわたくしの行動を全て見通しであると言われているみたいでそれが余計に腹が立つ。


 その船は大船は大船でもタから始まりクで終わる豪華客船だとわたくし思いますの、お母様。


 しかしながらわたくしもこのまま素直に行くつもりなど無い。


 反抗期とやらを見せて差し上げましてよ、お母様。


「あら、あらあら?あ痛たたたたたぁー。なんだかお腹が痛くなって来ましたわ。もう立てませんわ。あ痛たたたぁー」


 このハリウッドスターもビックリの名演技を見てもまだお見合いに行く事が出来るかしら? お母様。


 残念ながらわたくしの方が一枚上手でしたわね。


「仮病で御座います、奥様」

「あら、やっぱり。 流石にここまで我が娘が大根役者であるとは思わなかったのですが一応回復魔術をかけて頂戴」

「かしこまりました」

「…………」


 穴があったら入りたいという言葉はこういう時に言うのだと私、この歳で初めて知りましたわ。


 良いでしょう。


 見合いの一つや二つくらい………二つは言い過ぎましたわ。


 わたくし万が一結婚するならば恋愛結婚だと決めておりますの。


 相手の方には申し訳ないのですが一つくらいパパッと行ってパパッと帰りパパッとお断りの連絡してそれで終わりですわ。





「はじめまして。 わたくし、アレックス・ボールドウィンと申します」


 見合いの席、私の正面にはこの世界には珍しく艶の黒髪黒目、そして平坦な顔。


 しかし不細工とかでは無くいわゆる塩顔又は醤油顔であり西洋風ではなく東洋風、それも日本人の様な顔の造形をしたイケメンである。


「どうしました? 私の顔に何か付いておりますか?」

「い、いえっ! 何も無いですわっ! 自己紹介ですわねっ!! わたくしフラン・ヨハンナ・ドミナリアと申しましゅっ!」


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