第42話 なんとおめでたい人間なのであろう
「あうっ!?」
そして私は右頬を叩かれる。
全く、こいつのビンタは手に着けられた趣味の悪い様々な宝石の指輪の金具部分が当たり実に不快な痛みである。
しかし、あの日私の胸に刺さったフラン様の言葉の方がもっと痛い。
「父さん、平民は頭が悪いからビンタじゃ生温いんじゃないかな?生きてさえいれば良いのだから爪の一つや二つ、なんなら指の一本でも切断すれば自分の立場を理解出来るんじゃないかな?」
「おお、それもそうだなリカルド。 流石我が息子だ。 なら早速やってみたまえ」
「ひっ!!」
貴族という生き物の中には私達庶民を人間だと思っていない者がいる事は流石に十五年生きていれば情報として耳に入って来るし理解はしているつもりであった。
しかし平和ボケしていた私は、無意識のうちに同じ形をした同じ人間だからまさか平民を人間だとも思わない人がいるなどと心の奥底では信じていなかのであろう。
だからフラン様にも、コールドウェル家にも強気で行けたのであろう。
私という人間はなんとおめでたい人間なのであろう。
ここ最近私の価値観や常識はぶち壊されてばかりである。
「では、まず右手親指の爪でも剥ごうか」
リカルドは初めから私の爪を剥ぐつもりだったのであろう。
ポケットの中から既に持って来たいた金属製のよく見るペンチを取り出すとカチカチと鳴らし、その音が私の恐怖心をなお一層煽る。
あぁ、もうダメだ。
そう思った時激しい衝撃音と共に部屋の扉がぶっ飛ばされる。
そして、ドアがあった場所には見たこともない衣服に見たこともない細い剣を携え顔は黒い仮面をかぶっている、金髪の見事なドリルを携えた女性がいた。
「諦めなさい。 既にこの件は然るべき場所へ通報させて頂いておりますわ」
「えっと………フラン様?」
「いいえ、違いますわ。全くの別人ですわ。きっと長い時間拘束されて疲れてらっしゃるのでしょう」
「いやでも、金髪のドリル──」
「違います。 他人の空似ですわ」
いや………幾ら何でもこの声音にこの口調、そしてなんと言っても見事な金髪のドリルの持ち主が別人である訳が無いと思うのだが。
ま、まあ本人が頑なにそう言っているのならば気付かないフリをしてあげるのが大人の対応なのかもしれない。
◆
どうしましょう、普通に迷ってしまいましたわ。
ここまで完璧にわたくしの予想通りに物事が動き、澄まし顔でブラックローズの面々を送り出した手前ここで「迷子になりましたわ。 どうしましょう?」とは、わたくしとペアを組んで一緒に来ているウルの前で言える訳が無い。
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