第41話 ダウト
そして私の問いにコールドウェル家の恐らく当主である人物は「これで満足かね?」と言った表情をしてくる。
そして私は思う。
ダウトだと。
これでも豪商の娘である。
いや、豪商の娘でなくとも分かってしまうであろう程、顔に表情が出ていた。
そして私はその表情から、単にプライドが高く最近巷で騒がれている不正奴隷売買の一斉摘発を理由にしているだけであろうと見抜く。
それはまるでコールドウェル家の財政難は俺のせいではないと必死に言い訳を並べ立てる子供の様である。
これでは例えどこの世界であろうとも餌にされて終わりであろう。
自分に才能があると勘違いしている無能ほど旨味のある餌はいない。
そしてそれが肥えていれば肥えているほどその肉を漁りにハイエナやハゲタカが囲いに来るものである。
恐らくこの者の様子からして既に周りが敵だらけであると気付き、ようやくコールドウェル家が没落寸前である事に気付いたのであろう。
見方を変えれば周りが、自分は貴様の血肉を漁る為だけにコールドウェル家と関係を持っているという事を隠さなくなったという事であろう。
それは即ちコールドウェル家は本性を隠す必要がない程の状況であるという事である。
そんな状況にも拘らずこの男は未だに自分の無能さに気付かず周りが悪いと言うのだから手に負えない。
考える事をしない者がこれ程滑稽だったとは、学園に入れてくださったお父様とそれに気付かせてくれたフラン様には感謝しかない。
「この期に及んで私ごときに威厳を保ちたいがだけに誰でも分かる嘘を吐く様な貴方がコールドウェル家をワンマン経営し、他人の意見も聞かず他人を見下し、無駄なプライドで無駄な出資などをした結果、コールドウェル家が没落寸前まで陥った、の間違いではなくて?」
そこまで言い終えると部屋に乾いた音が鳴り響き私の左頬がジンジンと痛み出す。
その姿はまるで、自分を鑑みる事をせず暴力で解決しようとするあの時の私そのものである。
もし、生きて帰れる事が出来たのならばフラン様に真っ先に謝ろう。
今まで私はフラン様に合わせる顔が無いと思っていた。
しかし、いざこうして死という物を身近に感じた今ではそれもまた己の弱さの言い訳でありこのまま卒業して行くのだと平和ボケしていた事に気付く。
死んだら謝る事すら出来ないのである。
「平民如きが公爵家であるこのアードルフに楯突くだけでは無く我輩を没落の原因だと申すかっ! 人間にすらなれない卑しい存在の平民風情がっ!! 平民は黙って俺の肥やしになっていれば良いのだっ!」
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