第36話 口の中に幸せが広がって行く
そしてわたくしはアンナ目に宿る静かなる決意と強くなる崇拝心に気付く事が出来なかった。
◆
「調子はどうかしら?」
「問題無く進んでおります」
「とても美味しい。これはとんでもない食べ物です」
私がそう聞くとメイとウルがフラン様に教えて頂いた食品の製造が問題無く進んでいる事を教えてくれ、そして試食品を渡してくれる。
「んんーっ!! こ、これは確かに、とんでもない食べ物ですねっ! 貴族界がこぞって買いに来ることでしょうっ!!」
頂いてくれた試食品を一口口に入れるだけで口の中に幸せが広がって行く。
この、苦いだけで疲労回復滋養強壮の薬として水に溶かして薬として飲むだけのカカオからチョコレートなる、これ程までに美味しい食べ物が出来上がるなど誰が想像したであろう。
そもそも甘味とは甘ければ甘い程高級とされる為苦味の塊であるカカオに砂糖を入れるなどというその発想、そして完成した時の味を想像出来ていたフランお嬢様の叡智たるや、崇拝せずにはいられない。
これが私達のご主人様であると声高々に宣言しながら街中を練り歩き自慢しまくりたい程である。
そもそも数多いるであろう粛清対象である者の中からまず始めにジュレミアを選んだ理由は奴隷を一気に手に入れる為だけだと思っていたのだが、ジュレミアの隠し資金と人脈から奴隷の確保だけでは無くチョコレートなる食べ物を作り出し販売する事により手の空いた奴隷を腐らす事無く効率良く使うだけでなくブラックローズの運営資金調達の目処を立てるなど誰が想像出来ようか。
ちなみに何故か週二回は完全に休む事とされているのだが、休みの日はお嬢様に貢献出来ないストレスで潰れそうになってしまう。
そんな私がまだメイドであった時はお嬢様の偉大な計画に全く気付く事が出来なかった事を後悔したりしたのだが、それは仕方の無い事だったのだ。
何故ならそれはフランお嬢様だからである。
私如きがフランお嬢様の計画に気付くなど、今ではなんと愚かな考えなのかと恥ずかしくすら思う。
それほどまでに私達の御主人様は偉大なのだ。
残念なのは元メイド仲間達から今だに可哀想な目線を向けられる事である。
むしろフランお嬢様の奴隷にさせて頂いた今の方が断然幸せであると言えよう。
メイド時代は常に息苦しく、ミス一つすら許されない環境によりストレスも半端なかった。
いっそのことドミナリア家のメイド全員をフランお嬢様の奴隷にしてあげれる事が出来ればなんて幸せな事のだろうかと思う。
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